奥会津とは福島県会津地方の西南部、西は新潟県と接する7町村(柳津町、三島町、金山町、昭和村、只見町、南会津町、桧枝岐村)を指します。奥会津への足といえば旅情溢れるJR奥只見線です。しかし、2011年の新潟・福島豪雨に被害により一部区間(会津川口駅~只見駅間)が今も不通となっています。現在は代行バスが運行していますが、一日も早い復旧が望まれるところです。
奥会津は、交通が不便でも一度はつかってみたいと願う名湯の宝庫。秘湯の趣ただよう奥会津の極上温泉をご紹介しましょう。
奈良時代初期から続く「神の隠れ湯」
只見川の支流・滝谷川沿い、柳津(やないづ)町の会津西山温泉は、静かな山間に湧く秘湯の里として知られています。周辺には5軒の温泉宿と日帰り温泉施設があり、8本の源泉から豊富な湯が湧き出るため、地熱発電所も設置されているほどです。温泉開湯の歴史は奈良時代初期まで遡るといわれ、「神の隠れ湯」という温泉信仰を今なお色濃く残している地区です。
会津西山温泉の湯宿のひとつが、昔ながらの湯治宿の趣がある「老沢温泉旅館」です。歴史を感じさせる木造の廊下の先に混浴の浴場があります。温度が異なる3つの浴槽があり、その奥には温泉神社が鎮座しています。この社はまさに温泉を大切に守ってきた証で、敬虔な気持ちになります。
ここの泉質は含硫黄‐ナトリウム‐塩化物泉で、湯口には糸状の白い湯の花が絡み付き、成分の濃さがうかがえます。硫黄の匂いとともに、じわりと体を包み込む感覚がなんともいえません。ただじっと湯の中で、温泉の力を感じていたい。そう思わせる魅力があります。
開湯1200余年、3種類の源泉を引く「旅館 中の湯」には本館と別館があり、別館には開放感ある檜の内湯と露天風呂があり、なんと貸し切りで利用することもできるのです。これほど広い浴場が貸し切りとは、何とも贅沢です。泉質は老沢温泉旅館と同様、含硫黄‐ナトリウム‐塩化物泉の良質な美肌の湯です。
この宿は漫画家のつげ義春さんが宿泊したことでも知られ、素朴な佇まいのイラストどおり、今も鄙の雰囲気を感じることができます。代々、守り継がれた良質の湯は、温泉という大地の恵みをただただ純粋に楽しみたいという方にお薦めです。ぜひともお湯を分けていただくという気持ちで、入浴したいものです。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。