【直売所マニアックス】第2回 道の駅「公方の郷なかがわ」
コンビニほどではないけれど、スーパーと肩を並べるくらいに多い店、それが「農産物直売所」です。平成21年度の農林水産省統計によると全国におそよ1万7000か所あり、年間総売り上げは8800億円にのぼるそうです。
直売所は、「生産者自身が商品を売り場に並べる」「値段は自分の裁量で決める」のが基本。生産者は大きさや見かけのよさといった規格に縛られずに、好きなものを育て、値付けも自分の考えでお客さんに提案することができるというわけです。一方、利用者の利点は、農家が直接持ち込むので新鮮なうえに値段が安いこと。ときには野菜を並べにきた農家から、とっておきの食べ方を教えてもらえることもあります。そして、街のスーパーにはない個性的なものが買えることも、直売所ならではの大きな魅力です。
そんな直売所は、いわば文化の窓。全国各地の農産物直売所で目についたモノやコト、気になった味などを紹介します。
日本にお茶どころは数々ありますが、徳島県東部の那賀流域も有名な茶の産地です。「徳島ってそんなにお茶で有名だっけ?」と疑問に感じた方もいらっしゃると思います。そう。お茶はお茶でも、このあたりで飲まれてきたのは普通の緑茶や番茶ではありません。阿波ばん茶と呼ばれる発酵茶です。
発酵茶といえば紅茶やウーロン茶がおなじみですが、阿波ばん茶を発酵させる技術はこれらとはまったく異なります。紅茶やウーロン茶は、茶葉自体が持つ酸化酵素の力で成分を変化させます。阿波ばん茶の場合、この酵素が活動しないように葉を蒸してから、木桶の中で10日から2週間漬けこみます。
このとき、作業場に住みついている天然の乳酸菌が桶の中に降り、茶葉は漬物のように乳酸発酵を始めます。これを天日乾燥させたものが阿波ばん茶です。
近年、私たちの腸内には微生物の生態系とも呼べる巧妙な連鎖のしくみがあり、微生物は健康のみならず、免疫の安定などにも深くかかわっていることが知られてきました。「腸内フローラ」と呼ばれるそのメカニズムの中で特に注目されているのが、有害菌の増殖を抑える有機酸を分泌する乳酸菌です。
乳酸発酵で作られる阿波ばん茶は、腸内フローラのバランスを保つうえで有効という健康情報が流れるようになり、一気に有名な存在になりました。
売り切れが続出し、日本一入手の難しいお茶となってしまったとも聞いていましたが、先日、那賀川町の国道55号沿いにある『公方の郷なかがわ』という道の駅に立ち寄ったところ、幸運にも阿波ばん茶を買うことができました。
お店の人によると、農家も加工業者も士気が高まってフル稼働で生産するようになったので、今のところなんとか品切れしない状況を保っているそうです。ただし、量には限りがあるため売り切れ御免の状態です。
阿波ばん茶は入れ方も独特です。沸騰させたやかんにひとつかみほど茶葉を入れ、しばらく置くと、山吹色をした穏やかな酸味のお茶のでき上がりです。阿波ばん茶は、夏の土用に摘んだ硬い葉で作るためボリュームがあります。急須だと充分な量が入らず温度も下がるので、やかんで淹れることをおすすめします。個人的には、しばらく煮出したものもパンチが効いて好みです。
阿波ばん茶は、乳酸発酵の過程でカフェインが分解されるといいます。子供やお年寄りにもやさしく、お腹によいことが昔から知られていました。地元では、赤ちゃんが生まれると今も白湯の次の段階には阿波ばん茶を飲ませるそうです。
道の駅「公方(くぼう)の郷なかがわ」では、地域の物産品を扱う本館と、JAが運営する農産物直売所「とれとれ市公方」の両方で阿波ばん茶を販売。値段は250g入りの大袋で2000円程度です。
■道の駅「公方の郷なかがわ」
住所:徳島県阿南市那賀川町工地22-6
電話:0884・21・2631
営業時間:午前9時~夕方6時
定休日:無休。JAとれとれ市公方は毎週水曜日
文・写真/鹿熊勤(かくまつとむ)
茨城県生まれ。ナチュラルライフ、一次産業・モノづくりなどの分野で執筆活動を続ける。『サライ』には創刊から参加。旅先の農産物直売所で、ご当地食あふれる食べ物を発掘するのが趣味。著書に『糧は野に在り』(農文協)、『葉っぱで2億円稼ぐおばあちゃんたち』(小学館)。