文・写真/永井葉子(モーリシャス在住ライター/海外書き人クラブ)
ドラえもんや不思議の国のアリスにも出てくる飛べない鳥、ドードー。 インド洋の小さな島モーリシャスの固有種であったドードーは約250年前地球上から姿を消し、今では絶滅の象徴のような存在だ。
ドードーが絶滅してから約200年経った1975年、同地でモーリシャス固有種であるモモイロバトの生息数は10羽にまで激減、その年に観測された5回の巣篭もりのすべてがネズミによって妨害。絶滅は免れないと思われた。しかし現在では約450羽にまで回復。その裏にはドードーの二の舞にはさせないという強い意志を持って モモイロバトを救った人々がいた。
モモイロバトの運命を変えた人々
その人々とは、ダレル野生動物保護トラストの首席科学者を務めるイギリス人の生物学者、カール・ジョーンズとモーリシャス野生生物財団から成るモモイロバト保護プロジェクトチーム。従来の生体保全の方法では、まずその生物種の減っている原因を正しく把握し、それからその種の生息地を元の状態に戻すのが一般的。しかしそれだと時間がかかりすぎ、絶滅危惧種の研究を進めているうちにその種が絶滅してしまう、ということが少なからずあった。ジョーンズ氏は言う。
「まず個体数の制限要因(食物、営巣地、病気など)を現場で適切なものにしていかなければならない。病気の患者が前にいる時、観察するか? それとも治療して何が効くかを見るか?」
実際的で結果を重視する方法
彼らは1976年、まず2羽のモモイロバトを捕獲、飼育繁殖プログラムを始める。翌年繁殖させるのに成功、個体数回復への大きな一歩となる。1987年には飼育繁殖した42羽を自然に還す。当時飼育繁殖した動物を自然に還すことは一般的な方法ではなかった。それゆえこれは画期的、かつこのプロジェクトの重要なマイルストーンと言える。
80年台後半には野生個体群と飼育繁殖個体群の両方の詳細なモニタリングを開始。この情報を元にモモイロバトのより的確な給餌と捕食者の管理をする。
保護した動物が生息できる環境
こうしてモモイロバトを救える可能性が見えてきた。救った後には生息できる自然環境が必要となる。そのため1994年、ジョーンズ氏の働きかけにモーリシャス政府が答える形で、モーリシャス島南西部にブラックリバー・ゴルジュ・国立公園が設立される。
絶滅の危機脱出
保護活動界のオスカー賞とも言われるインディアナポリス賞受賞者でもあるジョーンズ氏だが、彼が率いるこの方法は従来の方法を支持する生物学者からは批判的に見られることもある。しかしこの保護プロジェクトによってモモイロバトの生息数は劇的に回復、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧動物のレッドリストにおいて2000年には「絶滅寸前」から「絶滅危機」へ、さらに2018年には「危急」へとランクダウン、絶滅は免れないというところから脱出。2019年現在モモイロバトの個体数は約450羽。モーリシャス島の5か所に野生のモモイロバトの生息地が見られる。そのうちの4か所はブラックリバー・ゴルジュ・国立公園内にある。
公園は一般開放されており、誰でも事前予約なしに利用可能。公園内には3種類の難易度からなる8つのハイキングコースがあり、初心者でも気軽に散策できる。
国立公園の入り口は4箇所。ブラックリバーエントランスは観光客も訪れるタマランのビーチから車で約20分。ビーチの近くに広大な森が広がっていることに驚かれるかもしれない。筆者が訪れた時にはモモイロバトに会うことはできなかったが、運が良ければモモイロバトやその他数々のモーリシャス固有種に会えるという。
ブラックリバー・ゴルジュ・国立公園:http://npcs.govmu.org/English/Pages/NPCS%20Updated/Black-River-Gorges-National-Parks.aspx
モーリシャス野生動物財団:https://www.mauritian-wildlife.org
ダレル野生動物保護トラスト:https://www.durrell.org
文・写真/永井葉子 (モーリシャス在住ライター)
10年間のフランス・パリ近郊生活後、2014年よりインド洋の小さな島・モーリシャス(在留邦人50人余り)在住。 英仏語での取材を元にフランス及びモーリシャス関連記事を執筆。海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。