取材・文/末原美裕
冬の京都は寒いからこそ、深く凛とした空気が流れている。そんな時こそ、京都を訪れたなら石庭巡りをしてみるのはどうだろうか。禅宗の寺にある石庭は禅問答をする空間だからこそ、抽象的な表現を通して見るものの心に問うてくるものがある。
今回は、京都の数ある石庭を持つ寺の中でも3寺を厳選してご紹介していこう。
■荒波にうち寄せもまれながらも独坐している大自然を表した、大徳寺 瑞峯院の「独坐庭」
大徳寺 瑞峯院(だいとくじ ずいほういん)は、室町時代の九州豊前豊後の領主でキリシタン大名としても有名な大友宗麟の菩提寺として創建された寺だ。大友義鎮が22歳の時に得度を受け、宗麟と名を改めた。法名である瑞峯院殿瑞峯宗麟居士から瑞峯院となっている。
瑞峯院にある独坐庭(どくざてい)は、昭和を代表する作庭家・重森三玲作による蓬莱山式庭園だ。蓬莱山式庭園は蓬莱神仙思想に基づいた庭園で、不老不死の世界観を表している。こちらの庭では不老不死の仙人が住む巨石で表した蓬莱山が砂紋による荒波に打ち寄せられるが、雄々と独坐している、大自然の活動を表している。
蓬莱山を表す石までまっすぐ石がつなげて置かれている様は力強い。庭を望む角度によって見え方・感じ方が異なるので、心ゆくまでじっくりと眺めていただきたい。
「重森三玲の戦後の作品の中でもいい庭の一つです。三玲はいつもテーマありきで庭を設計していました。そこに彼の造る庭の面白さがあります。また、お金がないときほど知恵を絞りいい作品を残していますね」と重森三玲氏の孫であり、作庭家の重森千靑(ちさを)氏も推薦する。
瑞峯院にはもう一つの庭、閑眠庭(かんみんてい)もある。こちらも重森三玲作の庭だ。キリシタン大名・大友宗麟にちなんで、石組みで十字架が表現されている。
■日本で最も小さいが格調の高い、大徳寺 龍源院の「東滴壺」
続いて、瑞峯院と同じく大徳寺塔頭の一つ、龍源院の坪庭、東滴壺(とうてきこ)をご紹介しよう。京都の夏は暑いので、坪庭が温度調節をするために重要な空間となっている。坪庭というと“狭い庭”というイメージがあるかもしれないが、京都御所の坪庭は300坪あり、狭いことを意味するわけではなく、建物と建物の間にある庭を指す。
この石庭には5石と砂のみしかないが、遠近法も奥行きも確かに感じられる。昭和の作庭家・鍋島岳生(がくしょう)による庭だ。「禅宗だからこそできる庭。いつかこうした庭を作ってみたい」と重森千靑氏も言う。
龍源院には他にも一枝坦(いっしだん)、龍吟庭(りょうぎんてい)、滹沱底(こだてい)という3つの石庭があり、計4つの庭が方丈を囲んでいる。どの庭も手入れが行き届き、佇まいが美しい。
室町時代から昭和まで時代も形も異なる4つの枯山水の庭が眼福を与えてくれるはずだ。
■人の心の二面性に通じる、妙心寺 退蔵院の「陰陽の庭」
妙心寺 退蔵院は1404年に建立された山内屈指の古刹だ。境内には敷砂の色が異なる2つの石庭による、陰陽の庭がある。
特に黒砂が敷かれた陰の庭は白砂の多い枯山水の庭の中でも稀有な存在だ。陽の庭には7つ、陰の庭には8つの石が配されている。陰陽の庭は人の心の二面性に通じていると言う。禅宗の庭らしく、見る者にその意味を問いかけてくるようだ。
退蔵院には他にも室町期の画聖であり、狩野派2代目の狩野元信が作庭したとされる枯山水庭園、「元信の庭」もある。庭の背景には常緑樹が主として植えられ、一年を通して変わらない「不変の美」を表現しているとされている。
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京都の寺を訪れる人は仏像よりも庭を観ている時間の方が長いと言う。その理由についてある住職は「庭に神様が宿っているからです。訪れる人たちも自然とそのことを感じられるのでしょう」とおっしゃっていた。石庭は数百年の時を超えて心に問いかけてくる。侘び寂びが色濃く残る空間の中、石庭を通して自分と向き合う時間をとってみてはどうだろうか。
■大徳寺 瑞峯院
住所:京都市北区紫野大徳寺山内81-1
アクセス:市バス「大徳寺前」下車、徒歩約5分
拝観時間:9:00-17:00(16:30受付終了)
拝観料金:大人400円
■大徳寺 龍源院
住所:京都市北区紫野大徳寺町82-1
アクセス:市バス「大徳寺前」下車、徒歩約5分
拝観時間:9:00-16:20 (受付終了)
拝観料金:大人350円
■妙心寺 退蔵院
住所:京都市右京区花園妙心寺町35
アクセス:JR山陰本線(嵯峨野線)「花園駅」下車、徒歩約7分
拝観時間:9:00-17:00
拝観料金:大人600円
http://www.taizoin.com/main.html
「そうだ 京都、行こう。」京都 禅寺と石庭めぐりプラン:
https://souda-kyoto.jp/
「そうだ 京都、行こう。」石庭特別イベント:
https://souda-kyoto.jp/travel/
京都デスティネーションキャンペーン「京の冬の旅」:
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取材・文/末原美裕
小学館を経て、フリーの編集者・ライター・Webディレクターに。京都メディアライン(https://kyotomedialine.com)代表。2014年、文化と自然豊かな京都に移住。