■「ただの文学青年でございます」
宜蘭設治紀念館のまわりには、日本統治時代の建物がいくつか補修・復元されて残されていますが、すぐ隣の建物は、1906年に「乙等官舎」として建てられた木造建築で、現在、宜蘭文学館としてオープンしています。
館内では企画展示を見学できたり、併設の喫茶室でくつろぐこともできます。
このあたりには昔から文学愛好者が多く、李さんは短歌のサークルも主宰しているそうです。
「ここに来るといい詩が浮かぶのです。戦争が終わった17歳まで私は日本人でした。当時、学徒動員で働いていたのですが、特攻隊でふたりの友人を亡くしました。戦争と動乱の時代を私は、お恥ずかしながら生き残りました。哀れなものでございます。
しかし、日本の文学が大好きで、読んでいる時間は幸せでした。石川啄木、宮沢賢治、松本清張……私はただの文学青年でございます」(笑)
謙遜しつつ、はにかみながら語る李さん、なんだか、戦後を舞台にしたテレビドラマの中の会話を聞いているような気持ちです。
「昨日まで日本人、今日から台湾人」と、歴史に翻弄された当時の市民の混乱や苦労はどんなものだったのでしょう。それでも恨みごとも言わず、ふたつの国の架け橋として86歳の今もボランティアを続けている李さん。日本をいつまでも好きでいてくれるのは、菊次郎さんを筆頭に、かつてこの地で、汗水流した多くの日本人がいたからかもしれません。
「お元気で」と文学館で挨拶をしてバスに戻ると、お別れしたはずの李さんが傘を持って全速力で走ってきます。誰かが傘を忘れたようです。そして、大きな声で「♪忘れちゃーいやだよ、きまぐれーガラス~」と歌いながら見送ってくれたのでした。
※次回は、台湾でも有数の羅東夜市と台湾のアットホームな民宿を紹介します。
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