■ハーモニーを奏でる一本の通り
食べ歩いてタプタプになったお腹をどうにかするには、とにかく歩くことです。おばさんにお礼を言い、島の東端から、西へ向かうと白亜の「セント・ジョージ教会」が見えてきました。1818年に建てられた東南アジア最古の英国教会で、青空に尖塔がよく目立ちます。
広々とした芝生を見ながら、マスジット・カピタン・クリン通りを南に向かっていくと、同じころ建てられたペナン最古の仏教寺院「観音寺(クアン・イン・テン)」が見えてきました。春節の時期だけなのか、真っ赤な提灯が空いっぱいに広がっています。
そのすぐ脇には、小さな祠があり、インド系や中国系の人々が花を捧げ、熱心に祈っています。通りの先にはカピタン・クリン・モスクがあり、一本の通りにさまざまな宗教が仲良く混在していることから、ペナンの人々はマスジット・カピタン・クリン通りのことを「ハーモニー通り」と呼んでいるそうです。異文化が隣合わせながら、お互いの文化や宗教を尊重し、独特のハーモニーを奏でているからでしょう。
人気のカナダやハワイ、オーストラリアを押さえ、世界の「暮らしたい国」にマレーシアが9年連続で1位をキープしている理由がここにあるのかもしれません。
地元の人から、こんな話も聞きました。ある中華系のレストランでは鶏を洗った水や茹で汁を溝に流しているけれど、金曜日、モスクに向かうイスラム教徒の人が道を通るので、その日は反対側の溝に流すそうです。
ビールを飲むお客さんも通りに面した席では飲まず、イスラム教徒の人に気を使って店の奥に座るそう。禁酒の国ではないので、仏教徒なら遠慮せず飲んでいいのでしょうけれど、こうした異教徒へのちょっとした気遣いができる国って、とても大人だなあと感心するのです。
多民族が上手に暮らすペナン島。異なる文化を尊敬しあい、うまく融合させていく懐の深さに、すっかり魅了されて私のマレーシア旅が終わりました。
これからオリンピックを迎える日本でも学ぶことはたくさんありそうです。特別な観光地に行かなくても、街を歩くだけで何かを感じられる普段着のマレーシアの街を、ぜひみなさまもジャランジャランしてみてください。
取材協力:マレーシア政府観光局