文・写真/ナガオヤヨイ(海外書き人クラブ/台湾在住ライター)

日本統治時代の建物に残るマジョリカタイル

台湾の「老街」と言われる旧市街を歩いていると、赤煉瓦の建物やバロック調の彫刻を施した建物の壁に鮮やかな装飾タイルを見ることがある。花や縁起のいい吉祥柄を配したこのタイルはマジョリカタイルと呼ばれ、日本統治時代の台湾に日本から運ばれたものが多い。

深坑老街の赤煉瓦建築に見るマジョリカタイル

台湾でマジョリカタイルが流行したのは1920年代。それまで中国建築の装飾といえば、熟練職人が手間をかけて作る彫刻や陶細工などが主流だった。一方、和製マジョリカタイルは、輸出先で好まれる色や図柄を積極的に用いたうえに、工場生産でコストも安く、壁に埋め込むだけなので工事も早い。図柄も豊富で華やかな装飾素材は人気となり、伝統家屋から洋館まで広く彩るようになった。

壁に埋め込まれたマジョリカタイル Photo by Panpanhua

台湾におけるタイルの変遷。装飾のみならず、耐火や防水の用途も備えた実用性ある建築素材に

その後の台湾におけるタイルの変遷をざっとご紹介したい。1929年の関東大震災を機に、タイルには耐火、防水性のある外壁素材としての役割が加わった。当時注目されたのは震災を耐えた帝国ホテルの建築構造や外壁素材。1930年代には台湾でもあの黄色い煉瓦に倣ったブリックタイルが広まった。旧台北公会堂の中山堂や旧台北郵便局など、今も残る日本統治時代の官庁建築にそれを見ることができる。

1936年竣工の旧台北公会堂、中山堂。外壁は国防色のブリックタイル

戦後は台湾の陶磁業が発展して量産が始まった。1950年代、住宅や団地の建設ラッシュを迎えると、外壁は防水性を備えたモザイクタイルで覆われ、衛生的だとしてキッチンや浴室などの水回りにも使われた。

同じ図柄を敷きつめるモザイクタイルの外壁

印刷技術が進化した1960年代にはプリントタイルが登場。以前のマジョリカタイルなど美しい図柄を復元したタイルが住居内で使われた。カラフルな図柄で彩られたキッチンや浴室は、現代台湾人の郷愁を呼び起こすワンシーンとなっている。

このチューリップ柄のプリントタイルを見て懐かしい思いに駆られる台湾人も多い Photo by Panpanhua

台湾の伝統タイルを写真とグラフィックで紹介するアートブック

「臺灣傳統瓷磚圖鑑(Traditional Tile Patterns in Taiwan/台湾伝統タイル図鑑)」。表紙にエンボスを施し、背表紙は布張りという気品ある一冊は、1920~1980年代の台湾に見られたタイルの変遷と図柄パターンをまとめたものだ。作者は黎(リ)世堯さんと湯(タン)晴雯さんの2人、クリエイティブユニット「爿爿花(Panpanhua/パンパンフア)」として2020年に出版した。

臺灣傳統瓷磚圖鑑。優れたデザインと内容が評価され、世界三大デザイン賞の一つ、2021年度IFデザインアワード金賞を受賞 Photo by Panpanhua
爿爿花の二人。黎世堯さん(右)と湯晴雯さん(左) Photo by JIE@CrowdWatch

彼らは国立台湾師範大学デザイン学部出身のミレニアル世代。在学中のある日、ふと見上げた建物の外壁にモザイクタイルを見つけた。雨粒が落ちてくるような流れるデザイン。身近な場所にひっそり佇んでいたタイルという素材に心をつかまれた。卒業論文のテーマをタイルに据え、1年かけて台湾各地を回り、今も残るタイルを探して記録した。

右奥のモザイク壁に雨模様が見える Photo by Panpanhua

卒業論文に装丁を施し、出版したものがこの伝統タイル図鑑だ。前半では、台湾におけるタイルの変遷を、冒頭でご紹介したようにマジョリカ、ブリック、モザイク、プリントの4つに分類し、さらにグラフィックの観点から図柄で分けて紹介している。後半では、タイルの図柄をグラフィックデータに興し、デザイン界で使われるパントーンの色コード番号で配色を表した。100種類もの図柄データカタログは圧巻である。

タイル探しの旅で見つけたマジョリカタイル Photo by Panpanhua
写真の記録をもとにグラフィックデータ化。図柄と色を再現している
後半部分の図柄データカタログは見開きで1図柄を紹介(上は五彩色のモザイクタイルのページ)。右ページにカラーデータ、左ページはパントーンの色番号とグラフィックパターン

出版の顛末がミレニアル世代らしい。出版社に難色を示されて世に出すことを諦めていたが、数年後に奮起して、クラウドファンディングで出版資金を募ることにした。すると想像を超える反応があった。

今、台湾では若い世代を中心に、1970〜80年代の古き良き台湾への郷愁が高まっている。モノはなくとも心が豊かな時代だった。子どもの頃、おばあちゃんの家の洗面台や台所に見たモザイクタイルやプリントタイル。台湾らしい生活文化に焦点を当てた爿爿花の志は多くの人の心に届き、集まった資金は目標の4倍以上、2500部を制作することができた。

一昔前の洗面台によく見た五彩色模様のモザイクタイル  Photo by Panpanhua

タイルの図柄データはオンラインで公開

陶製タイルが建材の主流から外れ、タイル工場の多くが閉鎖した今、残念ながらオリジナル図案はほぼ残っていない。そこで爿爿花は図鑑に掲載した図柄データをオンライン公開することにした。「タイルの図柄は台湾の日常から生まれたもの。だから誰の所有物でもなくみんなのもの」という考えから、世界にシェアしたのだ。出典元を明記すれば自由にダウンロードして使えるようにしている。

図柄データをオンライン上で公開  https://www.flickr.com/photos/191688317@N07/

都市開発が進む台湾では、古い家々がどんどん壊され、家を彩っていたタイルも砕かれている。爿爿花はそうした現場に赴いては残されたタイルを拾い集め、一枚ずつ洗って保管している。それらを素材に新たなアート作品を創るという。

取り壊し現場にタイルが取り残されていると聞けば駆けつける Photo by Panpanhua
拾ったタイルを分類。次の創作の素材となる Photo by Panpanhua

人々の心にあるタイルは、今度はどのように台湾を彩ってくれるのか。タイルを知り尽くした爿爿花による新しい価値の創造が楽しみである。

爿爿花(Panpanhua/パンパンフア) https://www.facebook.com/panpanhua/
「臺灣傳統瓷磚圖鑑」オンライン購入先(グローバル通販サイトPinkoiに出店中)https://www.pinkoi.com/product/sAVKTahE
オンライン上で公開されている図柄データ https://www.flickr.com/photos/191688317@N07/

参考文献:「日本のタイル100年 美と用のあゆみ」(INAXライブミュージアム発行)

文・写真/ナガオヤヨイ(海外書き人クラブ/台湾在住ライター) 
15年間の東南アジア暮らしを経て、現在は台北在住。著書に「バリ島小さな村物語」「フェアトレードの時代」など。執筆、編集、Webデザイン、レイアウトデザインを行う。タイル好き。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/

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