文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

2021年11月21日、全米中の映画館で『ロッキー4/炎の友情』(原題: Rocky IV)の「究極」ディレクターズ・カット版が一夜限りで劇場上映された。11月21日は『ロッキー』シリーズ第1作が1976年に米国で初めて公開された記念日にあたる(日本公開はその翌年)。シリーズ公開45周年、第4作(1985年)が公開されてからは36年振りのことだった。

第4作は同シリーズでも最も人気が高い作品のひとつではあるが、筆者の私見では1点だけ物足りない部分がある。冷戦最中の時代に主人公ロッキー・バルボアが敵地ソ連で猛特訓を積み、ブーイングを浴びながら戦うという設定のため、シリーズ中唯一、ロッキーが地元フィラデルフィアの階段を駆け上る、あのお馴染みのシーンが登場しないことだ。

貴重な歴史的遺産であるはずの場を変えてしまったボクシング映画の名場面

ロッキー階段奥の建物がフィラデルフィア美術館
左側は米国初代大統領ジョージ・ワシントン像

「ロッキー階段」(The Rocky Steps)と呼ばれる有名なこの階段は、もちろんそれが正式名称ではない。フィラデルフィア美術館の正面玄関前にある階段の通称である。

フィラデルフィア美術館は1876年(明治9年)に設立された。その年は米国の建国100周年にあたり、その記念として開催されたフィラデルフィア万国博覧会のパビリオンが基になった建物だ。歴史もあり、由緒ある美術館なのである。そもそも、フィラデルフィアは米国独立宣言(1776年)が採決された、合衆国誕生の地でもあるのだ。

そのような歴史や文化の由来がある建物にかかわらず、このフィラデルフィア美術館は正面にある階段の方がはるかに有名になってしまっている。もちろん、『ロッキー』シリーズで主人公が階段を駆け上る数々の名シーンのせいだ。

ロッキーの真似をして、この階段を駆け上がろう、そこで写真や動画を撮ろう、そんな多くの観光客でいつも賑やかだ。それだけを済ましてしまえば、もう美術館や他の史跡には立ち寄りもしないでフィラデルフィアを後にする人も少なくはない。恥ずかしながら、筆者もその1人だ。

ロッキー階段の楽しみ方

ロッキー階段は72段からなる石の階段だ。頂上までは一直線だが、途中に何か所か踊り場がある。ロッキーのようにダッシュしても、しなくてもいい。ゆっくり走っても頂上までは30秒もあれば十分だ。勿論、実際に走ってみて、動画まで撮ったことがあるから知っているのだ。

頂上は広場になっている。ロッキーがフィラデルフィアの町を見下ろしながらガッツボーズをする場所だ。当然、ここでもそのガッツポーズの真似をして写真や動画を撮る人で溢れている。

ロッキー階段頂上広場から眺めるフィラデルフィア

かつては頂上広場にロッキーの銅像があったということだが、筆者が訪れた時には階段下右側に移動していた。多分、人が集まりすぎて、通行の邪魔になったか、あるいは階段に転落する事故でもあったのではないだろうか。

今でもロッキー像前での記念撮影は人気で、長い列ができている。階段の向こう側には米国初代大統領ジョージ・ワシントンの乗馬姿の銅像があるが、筆者の見たところでは、ロッキー像の方がはるかに人を集めている。

ロッキー像の高さは約3メートル

横幅がとても広い階段なので、数十人のグループでも一斉に走ることもできる。もしそうしたければ、体力の続く限り、階段の昇り降りを何回でも繰り返したって構わない。

大型観光バスで階段前に乗り付け、一斉に駆け出していた謎の集団

映画やテレビドラマのロケ地が後に観光名所になることは珍しくないが、ロッキー階段こそはその最大の例ではないだろうか。これだけの人が集まるのだから、入場料を取ればさぞかし儲かるのではないかと思うが、勿論そんなことはない。階段や広場への出入りは無料かつ自由である。

映画『ロッキー』シリーズに胸を躍らせたことがある人も、あまり関心がない人も(後者のタイプは個人的には友情を感じにくい)、機会があれば足を運んでみてはどうだろうか。

「ロッキー階段」(Rocky Steps)
所在地:2600 Benjamin Franklin Parkway, Philadelphia, PA 19130

文・角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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