創立150年を迎える東京国立博物館は、日本で最も長い歴史を誇る博物館。数多くの美術品を収蔵する東京国立博物館の中でも、質量ともに最も充実しているのが絵画。そこで、世界に誇る国宝名画を紹介します。
岩佐又兵衛『洛中洛外図屛風(舟木本)』
400年前の京の都の姿がよみがえる、都市のエネルギーに満ちた大画面
おそよ10年に亘って続いた「応仁(おうにん)の乱」により、焦土と化した京の都が都市として復興を果たした15世紀末。華やぎを取り戻した都の行事や祭礼の様子を風景画として描き出すという「月次祭礼図(つきなみさいれいず)」が誕生。それがやがて都を支配する天下人たちの欲する都市景観図として描かれるようになり、さらに突き詰めて都の全体を縦横無尽に描き出す「洛中洛外図(らくちゅうらくがいず)」という様式が確立する。洛中は都の市中を表し洛外はその郊外を指す。
都市の中心部とその周辺の人々の暮らしや四季の行事などを仔細(しさい)に描く「洛中洛外図」は、現存するものだけでも100点以上はあるとされ、中でも著名なのが狩野永徳(かのうえいとく)による「上杉本(うえすぎぼん)」と本作。共に国宝に指定されている。
描いた岩佐又兵衛(いわさまたべえ)は信長の重臣・荒木村重(あらきむらしげ)の子として生まれ、絵師になったという数奇な運命の持ち主。桃山から江戸へ、即ち戦国から太平の世へと移り変わる16世紀末から17世紀初頭に土佐派(とさは)や狩野派(かのうは)に学んで独自の画風を確立。風俗表現に新たな境地を構築した。
本作「舟木本(ふなきぼん)」に描かれる都の姿は元和(げんな)元年(1615)頃の景観。右隻(うせき)には秀吉が建立した方広寺(ほうこうじ)大仏殿、左隻(させき)には家康が建造した二条城が共に画面の両端に描かれており、右隻と左隻で豊臣家と徳川家を象徴する建造物が対峙するという構図になっている。
当時の政治的な緊張感とともに、そこに暮らす町衆たちの姿や風物をエネルギッシュに描き出しているところが興味深い。