世界最大のSNS、Facebook。そのトップであるマーク・ザッカーバーグは、いかにして「Facebook」を生み出したのか。リーダーシップとマネジメントに悩む、マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」から、マーク・ザッカーバーグの成功を学ぼう。
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Facebook創始者に学ぶ「引き寄せ」のリーダーシップ
21世紀を代表する世界的企業「Facebook」を生み出したマーク・ザッカーバーグ。卓越した頭脳を持つとはいえ、一大学生に過ぎなかった彼がなぜここまでの成功を引き寄せることができたのでしょうか。その一因は彼の「ミッション」に基づくリーダーシップにあるのではないでしょうか。
「Facebookはライフライン」というミッション
Facebookにおけるマーク・ザッカーバーグのミッションは、IPO申請書類に添えられた手紙から読み取ることができます[1]。
「Facebookは元々会社になることを目的として作られたのではありません。世界をもっとオープンにし、つながりを強めるというソーシャルミッションを達成するために作られました」
また、あるインタビューでは自身の事業を「公共事業」だと語っています[2]。つまり彼は、Facebookをガスや電気と同じ価値を持つライフラインだと感じ、自分の事業は人々がより良く生活するためのライフラインを構築する、まさに社会的使命であると考えたのです。その価値観はFacebookのサイトデザインや表示速度に忠実に反映され、その結果、世界最大のSNSへと成長を遂げました。
Facebookは決して革新的なアイデアではありませんでした。アメリカには既にMySpaceというSNSが存在しており絶大な人気を誇っていたからです。つまりFacebookは先行者利益により覇権を勝ち取ったわけではないのです。
後発組であるFacebookが多くのユーザーに支持された要因はMyspaceより優れた使い勝手にあります。マーク・ザッカーバーグはコミュニケーションにおけるライフラインを構築するべくFacebookの使いやすさを徹底的に追求しました。巨額の収入源となる広告であっても使い勝手を損なうものは採用しなかったほどです[3]。
このような強固な姿勢を貫くことができたのは、彼にミッションがあったからでしょう。「世界のつながりを強める」という使命があったからこそ、ユーザーに寄り添ったサービスを構築し、SNSの頂点に上り詰めることができたのです。
ミッションはリーダーシップの基礎である
リーダーシップを発揮するためには、ビジネスの指針となるミッションが必要不可欠です。指針があるからこそ一貫した態度を取ることができ、組織マネジメントでも良いパフォーマンスを生み出すことができます。日和見主義のリーダーには誰も付いていこうとは思わないでしょう。
永続する偉大な企業について解説している書籍「ビジョナリーカンパニー」でも、類いまれなる企業はカルト的とまで言えるほどの基本理念、つまりミッションを持っていると書かれています[4]。強いミッションほど均質的な行動をもたらし、より大きな成果につながるのです。
ミッションは人を惹きつける
ミッションを持って仕事をすると、そのミッションに共鳴した周囲の人間の行動を促します。Facebookの初代CEOとなるショーン・パーカーもザッカーバーグの遠大な野望に惹きつけられた一人でした。
ミッションとは、いわば魅力的な未来の提示です。たとえばCMやインターネットの商品販売ページなどで「想像してみてください。あなたが〇〇になった未来を・・・」というようなフレーズをよく見かけると思います。このような宣伝文句が多用されるのは理由があります。お肌が艶々になる、庭がきれいになる、出世できるなど、その商品を利用することによってより良い未来を獲得できると期待するからです。そのような輝かしい未来を提示することで購買行動を促しているのです。
リーダーシップも同じです。もしリーダーが仕事に対して大きなミッションを提示できたなら、それは魅力的な未来をチームに示すことにつながり、彼らのより良い行動を促すことにつながります。人を惹きつけるには、仕事に対するミッションを明確にし、未来を示すことが大切なのです。
ミッションは誰にでも持てる
ミッションはリーダーシップに欠かせない要素ですが、果たして誰にでも持てるものなのでしょうか。確かにマーク・ザッカーバーグは特殊なタイプの人間です。「Facebookを良くすることに全ての時間を使いたい」と発言し、着る服や食べ物に頓着するのは無駄な時間だと考えるなど、究極のワークホリックとも言えるでしょう。そんな彼だからこそ強いミッションが持てるのだと考えてもおかしくはありません。
また人によっては「自分はミッションなど持てるような仕事などしていない」と思うかもしれません。Facebookのようなベンチャー企業だからこそ大きな野望を持てるのだと。しかし、どのような仕事をしている人でもミッションを持つことは可能です。ザッカーバーグが母校ハーバード大学の卒業式でのスピーチでこのようなエピソードを語っています。
「ジョン・F・ケネディがNASA宇宙センターを訪れた時のエピソードで僕の大好きなものがあります。ホウキを持ってる清掃員さんにケネディが何をしてるのかと訪ねたら彼はこう答えました。『大統領、私は人類を月に送る手伝いをしているのです』」
これがミッションです。人によっては、この清掃員の仕事は単なる施設の掃除に過ぎないとしか考えないかもしれません。それも1つの見方としては決して間違っていないでしょう。しかし、この清掃員にとって自身の仕事はアメリカが世界に誇る宇宙事業の一端を担う重要な職務なのです。
あるいはこのような逸話もあります。
旅人が煉瓦を積み上げている職人達を見つけた。旅人は1人の職人に「何をしているのか」と訪ねると職人は「見ればわかるだろう。煉瓦を積み上げているんだよ。」と答えた。同じ質問を別の職人にすると、彼はこう答えた。「私はある人のために家を造っているんだよ」
ミッション持てるかどうかに仕事内容は関係ありません。その仕事に対してどのような価値を感じるのかが重要なのです。単なる金儲けのためにSNSを構築するのか、施設の清掃をするのか、煉瓦を積み上げるのか。あるいは、社会に影響を与えるため、偉大なる事業を成功に導くため、心地よく住めるマイホームを提供するため仕事をするのかでは自ずと発揮できるパフォーマンスも変わってくるでしょう。
理想主義だが現実主義でもある
もちろんミッションだけでは物事は上手く進みません。現実を見据えることも非常に大切です。最も成功を収めやすいタイプに「現実的な楽観主義者」というものがあります[5]。物事は上手くいくと楽観的に考えながらも、無計画で行き当たりばったりというわけではなく、目標達成のための具体的な計画を問題への対応策を立てておく。このようなタイプが現実的な楽観主義者です。
ザッカーバーグはFacebookに対して大きな可能性と熱意を持って取組みはじめました。しかし、Facebookが必ず成功を収めることができるという確信はなかったため、ファイル共有サービス「ワイヤーホグ」など複数のプロジェクトも同時に走らせていました。
彼は自分のサービスについて固執したり、妄信したりすることはなかったのです。常に現実的に物事を捉え、起こりうることに対して対策や次善策を講じていました。「様々な可能性を考慮し、それに応じた行動を取ることが本能的にできていた。」とショーン・パーカーも語っています。
マーク・ザッカーバーグには「現実的な理想主義者」という側面もあります。彼はユーザー体験を損なう広告宣伝を好みません。しかし、事業を拡大しミッションを実現するためには広告収入は欠かせませんので、サイト内に広告枠を設け利潤をも追求しています。このように理想を追い求めながらも現実的な利益も追求するスタンスが彼を成功に導いたのではないでしょうか。これは偉大なる企業(ビジョナリーカンパニー)にも当てはまる点です[5]。
ミッションは必須ですが、大言壮語だけで実態が伴わないリーダーに信頼は伴いません。理想を実現するための現実的な取組みもしっかりと考えること。これがリーダーシップには必須の要素と言えるでしょう。
リスクを許容できる文化を作り上げる
Facebookの企業文化と行動指針では、より良いサービスを提供するためにリスクを恐れません。FacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグはインタビューでこのように発言しています[7]。
「二度と問題は見つからないとは言わない。今後も問題を発見する努力を怠りません」
シェリル・サンドバーグ
ミスを起こさないようにするのではなく、問題が発生することを承知の上で完璧に向けて前進していくことを前提としているのです。このスタンスは、ザッカーバーグ自身が失敗し続けたことで成功を手にしたことに由来しているのではないでしょうか[8]。
許容できるリスクや失敗は受け入れ、成功への糧とする。この企業文化はFacebookの組織全体に浸透しています[9]。Facebookにとって失敗が起こることが問題なのではなく、
失敗を恐れてミッションを実現するためのリスクを取れなくなるのが問題なのだと考えられます。ミスを叱責するだけの指導は失敗をゼロに近づけることができますが、挑戦する意欲をも失わせます。「アイデアを出せ!」と言いながら出てきたアイデアを非難してしまえば、誰も自分の意見を言わなくなるでしょう。
人は自律性と有能感を得ることで優れたパフォーマンスを発揮できます[10]。「失敗する自由」という文化を育むことで常に積極的な姿勢で仕事ができる。これがミッションを実現するために重要な企業文化になっているのです。このような文化を作り上げていけば、自ずと価値観を同じくする優秀な人材が集まってくるのではないでしょうか。
まとめ
以上、Facebookから学べる引き寄せのリーダーシップについて考察しました。まとめると以下の3点が大切な要素となります。
・ビジネスにおけるミッションを持つ
・理想主義でありながら現実主義でもある
・リスクを許容できる組織やチームの文化を作り上げる
留意しておかなければならないのは、マーク・ザッカーバーグと同じようなミッションを持つことが重要、ということではないという点です。
自分の価値観に基づいた嘘のないミッションを持つことこそが大切なのです。
耳当たりの良い上辺だけの理想では、自身の細かな言動との食い違いが必ず起こってしまいます。
それを感じ取られてしまえばリーダーとしての信頼はたちまち損なわれてしまうでしょう。
自分なりの仕事に対する価値観とミッションを深く探ること。これが優れたリーダーシップの第一歩となるのではないでしょうか。
【参照】
[1]:Facebook、IPO申請書類に添付されたザッカーバーグの手紙全文http://techse7en.com/matome/188/
[2]:デビット・カークパトリック著「フェイスブック若き天才の野望」日経BP社、2011年
[3]勝利の理由は徹底した「ものづくり」優先の企業文化https://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20110228/218658/
[4]ジェームズ・C・コリンズ著「ビジョナリーカンパニー」日経BP社、1995年
[5]ハイディ・グラント・ハルバーソン著「やってのける」大和書房、2013年
[6][4]に同じ
[7]フェイスブックCOOが語るザッカーバーグ氏のリーダーシップhttps://www.dailymotion.com/video/x6i8u3w
[8]ザッカーバーグのハーバード卒業式スピーチが感動的だったので日本語訳した。https://www.huffingtonpost.jp/keizo-kuramoto/mark-zuckerberg-harvard-speech_b_16818864.html
[9]Facebook社で働く。自分を成長させてくれる、最高峰のステージへ。https://en-ambi.com/featured/51/
[10]エドワード・L・デシ著「人を伸ばす力―内発と自律のすすめ」新曜社、1999年
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いかがだっただろうか。自分の成すべきこと、成していきたいことをミッションと捉え、前向きに前進していくことが、リーダーとして他者を牽引する力の一つとなる、ということがおわかりいただけただろうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/