コロナ禍における仕事の方法として定着しつつある「テレワーク」。だが、まだ実施されていない企業も多くあるという。マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」から、その主たる理由について学ぼう。

* * *

テレワーク推進の抵抗勢力の実態は「ヒラ社員」でも「社長」でもなく「幹部」たち。

少し前に、エン・ジャパンが「リモートワーク求人」実態調査[1]という興味深い調査報告を提出していました。

報告では、調査対象となった転職コンサルタント180名が全員、「リモートワーク可能な企業(求人)は増えている」「リモートワークを求める応募者も増加している」と回答しています。

「今さら、なにを当たり前な」と思うでしょう。

しかし、実はこの調査は、2019年の11月の調査なのです。

つまり、コロナウイルス禍の前から、実は「テレワーク可の職場」と「テレワークしたい求職者」は増えつつあったのです。

しかしそれは、水面下で起こる僅かな変化に過ぎませんでした。

そして、2020年3月を境に世の中は一変しました。

テレワークの実施率は全国で35%、相対的に「三密」が発生しやすい首都圏では52%に登りました。[2]

多数の企業・働く人が「テレワーク実施」に傾いたのです。

その結果、テレワークを実施した9割の人が「継続に前向き」となりました。

テレワーク利用中の回答者に対し「今後もテレワークを利用したいか?」と質問したところ、92.3%が利用に前向きな結果に。
テレワーク利用企業、約2ヵ月で3.4倍 9割が継続に前向きも急な導入で課題残る/インフォマート調査 [3]https://saleszine.jp/news/detail/1599

調査の中では、半数が「まだ課題がある」としていますが、課題の多くは「紙の書類が扱えない」や「書類が持ち出せない」といった、生産性の本質とは別の話です。

つまり働き手は「ま、不便なこともあるけど、テレワークいいよね」と思っているのです。

これは、「新しい働き方」を望む人々にとって大きな前進でした。

ところがつい先日、こんなニュースが飛び込んできました。

テレワーク導入率は地域や業種で差、部長クラス以上の約半数が懐疑的–Dropboxが調査 
[4] https://japan.cnet.com/article/35156959/

経営者~部長クラスの48.9%は、「テレワークのメリットを感じていない」と回答した。

調査を見ると面白いことに、幹部クラスが最も「テレワークのメリットを感じない」と回答しています。

「テレワークが不可能な仕事もあるからでは」という方もいるかも知れません。

しかしこの調査は「ナレッジワーカーの有職者(製造業、運輸業の一般職は除く)」に限定して行ったものであり、いわゆるホワイトカラーの人々に対しておこなったもので、「テレワークが不可能な仕事」では決してないのです。

つまり数々の調査に、こんな構図が見えます。

テレワークに「反対」の経営者・幹部。
テレワークを「継続」したい社員。

一体なぜ経営者や幹部は、「毎日オフィスに来ること」にそれほど固執するのでしょう。

一つの仮説としては、彼らに「自宅で仕事=遊んでいる」という意識を持つ経営幹部が少なからずいることが挙げられます。

「一人に一台パソコンを配ると会社で遊ぶ奴ばかりになる」
 1996年、以前勤めていた会社でパソコンの導入を検討している際、「一人一台にするか」「複数人に一台にするか」を議論していた時、当時の担当役員(当時50歳代)はそう言い放った。その役員の認識は、「パソコン=遊んでいる」だった。さらに、同席していた幹部(当時40歳超)の大多数が同調した。
日本電産の永守重信会長兼CEOが、NHKのインタビューを受けて次のように話すのを先日拝見した。「テレワークは、どれだけ働いたか評価もできないし、信用ならないものだと以前は思っていた。それでも今の状況では、仕事より人命が大事だと考えてテレワークを導入した。だから、しばらく遊ばせておけば良いくらいに思っていた。しかし、テレワークで今まで以上に業績を上げる社員が出るようになった。目から鱗が落ちた。人事評価もそれに合わせて変えることにした」
[5] https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36277

現在ではもちろん、「パソコン=遊んでいる」という考え方は消滅しましたが、いつの時代も、新しいツールや手法に対して懐疑的な人は決して少なくありません。

「自宅で仕事=遊んでいる」という考え方をする経営者はおそらくまだまだ多く、永守氏の発言からもそのことが伺えます。

ただ、実際には「遊んでいる」は誤解でした。

確かにそのような人もいたかもしれませんが、逆に生産性が向上した人もいるのです。一概に「自宅で仕事=遊んでいる」とは言えません。

永守氏も「テレワークで今まで以上に業績を上げる社員が出るようになった。目から鱗が落ちた。」と指摘するように、実はテレワークそのものに問題があるわけではないのです。

では、何が問題なのか。

問題の本質は、「指示待ち」の社員、つまり成果に責任を負わない人々にあると、永守氏は述べています。

そのために、永守氏の経営する会社、日本電産は人事評価制度を「成果主義」に大きく変えました。

「ドイツや米国は同じ環境で生産性が落ちていない。日本は住居が狭いという問題もあるが、根本的に『指示待ち族』が多い。プロアクティブ(積極的)な人材を育てると同時に、今の慣習やシステムを変えないとテレワークは機能しない」
「4月から人事評価制度を大きく変えた。実績を重視し、5段階で厳密に評価する。入社年など年数による賃金の加算も撤廃した。賞与で2倍の差が出たり、場合によっては10倍もあり得る。結果次第で明らかな賃金格差を付けていく」
[6] https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/252238

つまり「成果を中心にした働き方」を会社の仕組みに取り入れない限り、従業員の仕事のパフォーマンスを測定できず、テレワークは機能しない。

テレワークに反対する人々、特に経営者は、そう言いたいのでしょう。

これは社員にとって厳しい要求であることは間違いありません。ガチの成果主義へ切り替わるのは、誰だって不安です。

しかし、よく見ていくとテレワークへの移行、ひいては厳しい「成果主義」への切り替えを望まないのは、「一般社員」より、むしろ「経営幹部」なのではないかと私はみています。

実は、最も過酷な状況にさらされるのは、実は幹部社員たちだからです。

例えば上で挙げた永守氏の率いる日本電産は、4月の人事で、役員を大量に降格しています。[7]

役員の大半を降格に、日本電産・永守氏に聞いた真の狙い
吉本君は確かに業績を上げられなかった。しかし、それは彼だけの責任ではない。全員の問題だ。皆やり直す意識を持ってもらいたい。当社は30年に売上高を10兆円(19年3月期売上高は1兆5183億円)に引き上げる計画を持っている。これを何としても実現するには、トップダウンによる早くて強力な経営力が必要になると考えている。
 報酬体系も4月から見直す。評価を業績連動で10段階にして、(担当部門の)計画を達成すれば高い評価になり、最高益を更新すればさらに飛び抜けるようにする。

トヨタも役員の数を半分以下にするなどの、大胆な人事を発表し、驚きを持って迎えられています。[8]

役員の数が半分以下に…トヨタ自動車「2019年人事」を読む
トヨタ自動車は来年1月1日付で、人事制度を大きく変更し、それに伴って、社長以下の執行役員は55人から23人に激減させる。(中略)
豊田章男社長の側近中の側近で、筆頭格の「番頭」である小林耕士副社長は関係者にこう語っているという。
「大相撲の横綱は負け越しや休場が続くと引退に追い込まれるし、大関以下は成績次第で番付が下がる。
しかし、トヨタの役員は大した仕事をしていなくても降格がない。年齢に関係なく能力があるものを抜擢して人材を入れ替え、組織を活性化していくためにはこうした人事が必要だ。

上のように、要は、既得権に甘えて、成果を蔑ろにしていた幹部社員こそ、テレワークに対する究極の抵抗勢力である可能性が高いのです。

会社の中を見渡してみてください。
「大した仕事もしていないのに、地位だけ高い人」いませんか?
彼は、テレワークに反対していませんか?

実力がバレてしまいますからね。

テレワーク推進の抵抗勢力の実態は「ヒラ社員」でも「社長」でもなく「幹部」たち。
間違いありません。

【参照】
[1]https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/20845.html
[2]https://www.jiji.com/jc/article?k=000000069.000030113&g=prt
[3]https://saleszine.jp/news/detail/1599
[4]https://japan.cnet.com/article/35156959/
[5]https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36277
[6]https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/252238
[7]https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/030901133/
[8]https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59233

* * *

いかがだっただろうか。テレワーク推進の抵抗勢力の実態は誰だったのか?おわかりいただけただろうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/

 

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