文/鈴木珠美
先日、取材に向かうために車で出かけた。車で出かける日は道の状況がわからないのでだいぶ早めに家を出る。その日は道が空いていたこともあり、約束の時間よりも1時間前に到着してしまった。渋滞にはまってイライラするよりはずっとましだが、さすがに時間があり過ぎるので目的地の近くにあるコーヒーショップに立ち寄った。座った席は行き交う車を眺められる窓際。ぼんやり流れゆく車を見ながらコーヒーを飲んでいると、ポルシェ911が信号で停まっていた。乗っている方は女性。おそらく60代。赤系のセーターを着ていて頭に眼鏡を乗せていた。ルームミラーの位置が気になるのか、信号待ちの間にミラーを何度か修正していた。信号が変わると颯爽と走り去った。「かっこいいな~」と心の声が思わず口から出そうになる。歳を重ねてからポルシェに乗る。かっこいい選択だ。
車に乗っていると素敵な車と遭遇することがある。それは車に興味が無かったペーパードライバー時代からのことで、車の名前を知らなくても心が勝手にときめくのだ。同時に気になるのが車のオーナー。車に目が留まり、どんな素敵な人が乗っているのだろう……と想像する。これは私個人の話だけでなく、女性ドライバーを応援するサイトを運営しているのが、女性ドライバー同士が集まる座談会やインタビューなどで、ことあるごとに話題になるテーマだ。
とある女性ドライバーは緑系のボディカラーのロードスターを街中で見かけてしばらく自分の車で追いかけてしまったそう。信号待ちのたびにちらちらと車とオーナーを観察したのだとか。
「深い緑のボディカラーに室内はベージュ。車の美しさや色合いにも惹かれたけれど、乗っているオーナーの装いも素敵だった。オシャレな車に乗っている人はファッションもオシャレですよね」
20代の彼女は、ロマンスグレーな紳士にたいそう心がときめいたそうだ。それからしばらくして彼女はロードスターを購入した。
話題にあがる車には特徴がある。オープンカーやスポーツカーといった車や女性のかわいい!、という感性を刺激するデザインの個性的な輸入車、あまり見かけない旧い車や存在感のある大きな車。いずれも意外性が心をときめかせているようだ。
先に上げたロードスターしかり、BMW Z4、アバルト124スパイダー、S2000などスポーツカータイプのオープンカーは、年齢を重ねた大人の方が乗っていると車に乗せられていない、落ち着いた一体感が自然と伝わってくる。フィアット500、MINI、ビートル、シトロエンC3など感性を刺激するデザインのある車も年上の方々が乗っていると、オーナー自身が乗りたい車を選んで乗っている雰囲気があって目に留まる。また存在感のある大きな車を颯爽と運転しているさまも心が動かされる。とくに大きな車を女性が運転しているとかっこいい印象として残るようだ。
「ジープに乗っていた50代前後の女性ドライバーを見て、私も乗りたくなった」
と言ったのは、今現在かわいらしいサイズの車に乗っている30代の女性だった。
ずいぶん前になるが、以前行った女性ドライバー同士の座談会で話題になったのは、シムカという車だった。
「街中ですごく素敵な車を見つけたけれど、なんの車かわからないの」から始まり、みんなでスマートフォンを片手に旧い車をあれやこれやと出し合い、彼女が見た素敵な車を探した。そしてたどり着いた答えは、フィアット600をベースにつくられた1000ccの4ドアセダンのシムカ1000だった。探している間に見つけたシトロエン2CV6や、アルファロメオ2000、ルノーキャトルなどといった車も「かわいいー!!」と盛り上がった。“かわいい”にはいろいろなほめ言葉が濃縮されている。
こだわりのある車に乗っている50代以上のオーナーを見かけると、いつか自分もそうなりたいと憧れる。丁寧に手入れされた美しい車に乗っている様子を見ると、オーナー自身も充実した日々を過ごしているような雰囲気がして、とてもスタイリッシュに映るのだ。
車はオーナー自身のライフスタイルを現すひとつの道具。さまざまな経験を積んだ方々が、手入れの行き届いたこだわりある美しい車に乗っている姿は、若者たちには心地よい刺激になっている。
文・鈴木珠美
カーライフアドバイザー&ヨガ講師。出版社を経て車、健康な体と心を作るための企画編集執筆、ワークショップなどを行っている。女性のための車生活マガジン「beecar(ビーカー)https://www.beecar.jp/ 」運営。