取材・文/ふじのあやこ
近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。
「不妊の辛い気持ちを救ってくれたのは同じ経験のある母親でした」と語るのは、凛子さん(仮名・41歳)。彼女は現在、都内の企業で派遣社員として働いており、結婚して旦那さんとの2人暮らし。茶色の髪は耳にギリギリかけられるぐらいのショートカットで、グレーの深いVネックのニットからはデコルテがハッキリと見えるスレンダーな体型をしています。話している間はずっと目をそらすことなく、意思の強そうな雰囲気を感じます。
教育ママの口癖は「一人っ子だから~しなさい」
凛子さんは山梨県出身で、両親との3人家族。父親は銀行員で、母親は専業主婦。母親は教育熱心で、ある口癖を毎日のように言われていたそうです。
「一人っ子が母親の中ではわがままなイメージがあるのか、いつも『一人っ子だからって甘えてはいけない』、『なんでも1人でできるようになりなさい』と言い続けられていました。小さい頃エレクトーン教室に通っていたんですが、みんな近所から通っていたものの、時間が遅くなると他の子たちはみんな親が迎えに来ていました。でも、母親は来なかった。いつも他の子にバレないように一番遅く、一人で走って帰っていました」
父親は厳しいことはなかったそうですが、食卓で一緒になってもほぼ会話はなし。父親は帰宅後にはずっとテレビを見ており、目が合うことも少なかったと言います。
「寂しかったという記憶では残っていません。でも、父親は1人でテレビに向かって話しかけるような人で、クイズ番組やスポーツ番組をずっと見ていましたね。家族3人でテレビを見ることもありましたけど、リモコンはいつも父親の近くにあって、好きな番組を見られたことなんて一度もなかったです」
小学校高学年の時に部屋にテレビを入れてもらえることに。その結果まったく居間で過ごす時間が減ってしまったそうです。
「テレビが欲しいと母親にお願いしていたけどずっと買ってくれなかったのに、ある日部屋にテレビがあったんです。後から聞いた話なんですが、その話を聞いた父親が実家に余っていたテレビを持って帰ってきてくれたみたいで。母親が詳細をまったく教えてくれなかったので当時は知りませんでした。父はテレビを独り占めしていたことを悪く思っていたからなのかな。
でもその結果、今までは居間にいる理由があったけど、部屋にテレビがあると食後に居間で過ごす理由がなくなってしまったんですよね。母親の手伝いとして洗濯物を畳むことは私の役割だったのでその時だけ居間にいる感じでした」
高校、大学、就職とスムーズに進むも、両親の仲は年々悪化していき……
凛子さんは成績が良かったこともあり、県内の進学校に進んだことで親からの期待を一身に背負うことになったと言います。
「両親というより、母親からの期待がすごかったです。親戚や、ご近所にも私のことを自慢するようになって、恥ずかしかったですね……。今までは家事を手伝うことが当たり前だったのに、『そんな時間があるなら勉強しなさい』と言われるようになったのも高校生の頃から。アルバイトも禁止でしたし、中学生の頃は週に1回の個人塾に行っていたんですが、高校生になると1年から大手の塾に通うことになり、さらに家庭教師もつけてもらいました。大学生になると親の干渉も少なくなりましたけど、高校生の時は勉強しかしていないと言ってもいいほど勉強づけでしたね。青春っぽいことなんて、ちょっといいなって思うクラスメートがいたぐらいで、何の思い出もないですね」
高校卒業後は有名大学へ進学。そして、大手の商社に就職。就職を機に都内で一人暮らしを始めた凛子さんは仕事は忙しいものの、月に1度は必ず実家に帰っていたそう。そこにはある理由がありました。
「高校の時から両親の会話が少なくなっていて、大学の時には私自身も家で晩ごはんを毎日食べていたわけではないですが、3人で食卓を囲むことがなくなっていました。休日に家にいたとしても、父親はお昼ごろから一人で出かけてしまったり、部屋に籠って出てこなかったり。それに母親もわざわざ父親の休みの日にご近所さんを家に招待してお茶会をしたりしていました。
大学卒業時くらいには、会話どころか2人が同じ空間にいるところを見なくなって。社会人になって通勤が厳しかったので一人暮らしを始めたんですが、両親を2人きりにするのが怖かったんです。熟年離婚とかの言葉が流行していたのもたしか同じ時期で。私が帰ると、久しぶりに会う娘を間に挟むことで同じ空間に両親が揃ってくれましたから」
両親の不仲が食い止めたい思いには一人っ子ゆえの気持ちがあり。さらに結婚後にある問題に直面してしまって……。
【~その2~に続きます。】
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。