取材・文/ふじのあやこ

家族との関係を娘目線で振り返る本連載。幼少期、思春期を経て、親に感じていた気持ちを探ります。~その1~はコチラ

今回お話を伺ったのは、徳島県で中学生と小学生の2人の男の子を育てている専業主婦の留美さん(仮名・36歳)。京都府出身で、両親と3歳上と1歳上に姉のいる5人家族。姉妹の中で一番体が弱く小さかった留美さんを父親は毎週末公園へ連れて行ってくれたそう。3人娘の中で一番仲が良かったのに、高校の時の部活をきっかけにこじれてしまいます。その後、表向きには通常の関係に戻ったものの、冷戦状態は続き、留美さんが23歳の時に当時付き合っていた男性について徳島に行くことになります。両親へ挨拶に来た彼に父親は激しい剣幕である言葉を言い放ったそうです。

「『連れて行くではなく、結婚します。だろうが!』と。私はすごくビックリしましたよ! まぁ今思えばいきなり娘が男性について地方に行くのに何か保障が欲しいというのはわかります。でも当時は23歳で、万が一彼と別れてしまってもまだまだやり直しがきく年齢だと思っていましたから。それに結婚なんてまだまだ先のことでまったく考えていなかったので。

しかし、父親から詰め寄られた彼はもう言いなりのようになってしまって、プロポーズも何もされていないのに、『結婚します!』とその場で宣言してしまいました。彼は休みの日の昼過ぎに挨拶に来て、夜の晩御飯を食べる時には入籍日なども候補で出ていたほどでしたね……」

里帰り出産のため京都に帰省。家族の中で一番張り切っていたのは父だった

その後すぐに彼の両親が京都にやってきて顔合わせが行われ、そのまま留美さんは京都にいる間に彼と入籍。2か月後には徳島での新婚生活がはじまったと言います。

「もうバタバタでしたね。プロポーズはもちろんなかったし、両親に『今までありがとうございました』との挨拶するタイミングもありませんでした。彼の仕事がすぐに始まるということで結婚式も落ち着いたらということで行いませんでしたし。徳島へは母親が最初はついて来てくれて、引っ越しなども手伝ってくれました。父親は結婚が決まったことで安心したのか、自分は仕事があるといって徳島に来てくれることはなかったです」

結婚生活は順調で、夫や夫の両親との仲は良好に進みます。お店の手伝いも行うなど慌ただしく過ごす中、徳島に来て2年目の時に妊娠が発覚。さらにその3年後にも子宝に恵まれ、20代で2人の子を持つ母親になります。

「1人目の子供を身籠った時にはしばらく京都の実家に帰省して、里帰り出産をしたんです。その時は母親もパートを減らして私の面倒を見てくれました。それに姉2人もまだ未婚で実家にいたので優しくお世話を焼いてくれましたね。みんなが甲斐甲斐しくしてくれる中で一番心配性だったのは父親でした。通院の時も母親が付き添ってくれるから大丈夫だといくら言ってもついてくるんです。一番驚いたのは私の携帯(当時はガラケー)の短縮ダイヤルに、父親が勝手に自分の番号を登録したこと。『いつでも連絡してこい』と言ったり、毎日体に良さそうなものを買ってきたり。里帰り中にすっかり昔の関係に戻っていましたね」

母親の急逝。一人になった父親が見せた気丈な態度

結婚して10年が経ち、夫と2人の子供と4人家族として過ごす中で、徐々に両親との連絡も年数回に減っていったそう。その10年の間に2人の姉も嫁ぎ、夫婦水入らずで過ごしていた両親に衝撃の事件が起こります。

「母親が急に倒れて、そのまま息を引き取りました。体調が悪いなんてこともなく、健康そのものだったのに。訃報は結婚後も京都で暮らしていた真ん中の姉からの連絡でした。私は子供たちを義母に預けて一目散に京都に戻ったんです。そこには横たわる母親がいて、本当なんだなって、その姿を目にするまで、もしかしたらという思いがあったのでショックでしたね。私たち娘は泣き崩れるしかできなくて、父親はただただ静かに母親の側に寄り添っている感じでした」

葬儀を終え、久しぶりに家族4人で実家に集合して一緒に食事をしたとき、父親は留美さんたちの前では一度も泣かなかったと言います。

「落ち込んでいたとは思います。母親は娘たち全員が嫁いだので、それをきっかけに夫婦旅行の計画をたくさん練っていたみたいで、父親もそれを楽しみにしていましたから。

急に一人暮らしになった父親のことを放っておけないと同じ京都に住む真ん中の姉が一緒に住もうと提案したことがあったんです。私は徳島、一番上の姉は広島に嫁いでいたのでそんなことを言いだすことはできませんでした。でも、父親はその提案を断ってきました。『それぞれある家族のことを一番に考えてほしい。父さんは幸せだったから』と言いました」

父親は現在一人暮らしを満喫しているようで、1年ほど前に小型犬を購入したそう。お盆や正月も「娘たちは嫁ぎ先で過ごすべき」と帰省する必要はないと伝えられていると言います。「そういう部分は本当に頑固なんですよね。今は3人で結託して、姉の家に行くついでということで実家に寄るようにしています。娘包囲網はこの先もずっと続けますよ。だって父とも家族ですから」と留美さんは笑顔で語ります。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

 

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