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夫婦から息子へと受け継がれた「マツダ ロードスター」ある家族の物語

高知県南国市。田畑が広がる緑豊かな住宅地に松村一亀(かつき)・倫子(のりこ)さん夫妻の自宅はある。ガレージを開けると、鮮やかな赤の初代「マツダ ロードスター」が、今にも走り出しそうな雰囲気を漂わせて佇んでいる。

「1992年に新車で購入して以来、一度も手放すことなく乗り続けていました」(倫子さん)

松村家のガレージにて。初代ロードスターのメンテナンスは専(もっぱ)ら夫の一亀さんの役目。近日、車検に出す予定という。

松村家のガレージにて。初代ロードスターのメンテナンスは専ら夫の一亀さんの役目。近日、車検に出す予定という。

教員である倫子さんにとって、当時、片道40㎞以上ある勤務先の学校までの往復や買い物など、日常生活の足に車は欠かせなかった。もともと運転が好きな倫子さんは中古車に乗っていたが、そろそろ新車が欲しいと思い始めた矢先に、初代ロードスターと出会った。そして交際中だった夫の一亀さんも、根っからの車好き。「ふたり乗りのオープンカーなんて(独身の)今しか乗れんやろ」という一亀さんの助言もあり、購入を決意した。

「納車は12月25日のクリスマス。販売店で受け取って、そのまま彼(夫の一亀さん)と室戸岬までドライブしました」

仲睦まじい松村さん夫妻の手元に、一枚の記念写真がある。20年前に一亀さんが撮影した、生後4か月の長男・悠生(ゆい)君を抱く倫子さんと愛車の初代ロードスターだ。

1996年に一亀さんが撮影した、生後4か月の長男・悠生君を抱いて愛車のロードスターに腰掛ける倫子さん。場所は高知 市内から車で約1時間のキャンプ場「ゆとりストパーク」。

1996年に一亀さんが撮影した、生後4か月の長男・悠生君を抱いて愛車のロードスターに腰掛ける倫子さん。場所は高知市内から車で約1時間のキャンプ場「ゆとりすとパーク」。

「子供ができたら車を買い替えることになるだろうと思っていたのですが、このロードスターだけは手放す気になれませんでした」

そんな松村家の想い出の一枚を再現してみた。撮影場所は20年前と同じ高知のキャンプ場「ゆとりすとパーク」。この20年で、赤ん坊だった長男・悠生君は大学生になり、長女・春花(はるか)さんが誕生。そして、ロードスターは4代目へと進化した。

それから20年後の今年、同じ場所で記念撮影。その間に松村家には長女の春花さんが誕生し、ロードスターも4代目(右)へと進化した。

それから20年後の今年、同じ場所で記念撮影。その間に松村家には長女の春花さんが誕生し、ロードスターも4代目(右)へと進化した。

助手席に長男を乗せて4代目ロードスターを操る倫子さん。「初代の"人馬一体感”をさらに強く感じます。欲しくなりますね」

助手席に長男を乗せて4代目ロードスターを操る倫子さん。「初代の”人馬一体感”をさらに強く感じます。欲しくなりますね」

オープンカーに憧れて倫子さんが購入した初代ロードスターには、松村家のかけがえのない想い出がたくさん染みこんでいる。

「購入前に幌を開けて夫と試乗していると、途中で雨が降ってきて。ところが幌の閉じ方がわからず、オープンのまま走りました」(笑)

倫子さんが教鞭をとっていた学校での想い出も微笑ましい。

「当時は高知市内でもロードスターは珍しく、下校時に生徒たちに見つかると興味津々で集まってきてしまうんです。しょうがないのでポップアップ式のヘッドライトを上下させたりしました」

夫婦で長距離ドライブに出かけ、年間1万㎞以上走ったこともある。

「1993年に山口県下関市のホテルで結婚式を挙げたのですが、式場の下見に旅行をかねて南国市からロードスターで往復しました」

長男が誕生してからもロードスターは活躍する。友人がくれたベビーシートやチャイルドシートに長男を座らせ、保育園にも通った。

「長男の昼寝用の布団がトランクから飛び出したまま走っていました(笑)。これは長女が生まれてからも同じでしたね」(倫子さん)

家族の一員のような働きをしてきた松村家の初代ロードスターに、今、ナンバーは付いていない。

「数年前に車検が切れてしまって。でも、夫がいつでも走れるように整備してくれています」

去年、免許を取った長男・悠生君が倫子さんにこう言ったそうだ。

「僕がロードスターを乗り継ぐから、絶対手放さないでよ」

親から子へ──。家族の物語を刻み、世代を超えて、ロードスターは走り続ける。

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松村さん一家(高知県南国市在住) 向かって左から長女春花(はるか) さん、妻の倫子(のりこ)さん、長男の悠生(ゆい)君、夫の一亀(かつき) さん。

*  *  *

この物語には続きがあった。

「こんばんは! 動画を撮ってみましたが、仕事に行くときの様子の方がいいかも…です。」

最初の取材から2年ほど経った今年の4月下旬、こんなメッセージとともに、初代ロードスターが復活したことを知らせる動画が、倫子さんから編集部に届いた。大学卒業後、実家に戻り、地元で就職を決めた悠生さんが、自宅から初代ロードスターに乗って仕事に出かける姿を撮ったものだ。

「僕がロードスターを乗り継ぐから、絶対に手放さないでよ」と言っていた長男の悠生君。その言葉が現実になった瞬間だ。それは、いつか息子に乗り継いでほしいという親としての秘めたる思いが実現した瞬間でもある。

生まれたときから、常に家族とともにあった初代ロードスター。悠生さんにとって、家族の一員のように感じる気持ちがあっただろう。

子へと乗り継ぐため、親が手塩にかけて“育てて”きた初代ロードスターが、いま蘇った。

そして、家族とロードスターとの新しい物語が、始まる。

文/橋本保+編集部

※2016年2月に『サライ.jp』に掲載した記事「夫婦ふたりの特別な車から“家族の一員”へ。将来は長男に受け継がれるかけがえのない愛車」に後日談を加えて再構成しました。

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