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獣医が指摘する「ドッグフードの選び方」意外な落とし穴とは


文/柿川鮎子

「ご長寿犬になるか、短命犬になるか、それは食事次第」と、飼い主さん達に愛犬の食事の大切さを訴えてきたのが、ノア動物病院グループ院長の林文明先生。林先生は、長年の臨床経験からも、犬の健康と正しい食事は切っても切り離せない大切なポイントであるとして、著書『愛犬を長生きさせる食事』(小学館刊)でも、フードの与え方や犬の食事内容について、たくさんの貴重なアドバイスを綴っています。

中でもドッグフードに関して、同書で先生は「飼い主側が勝手に誤解を抱いてしまっている場合がある」点を指摘しています。その例として取り上げているのが、ドッグフードの「ラム&ライス」表示です。

■ラム&ライスが原料でもアレルギーになってしまう

パッケージに「ラム&ライス」と書かれていると、何となく上質なラムのたんぱく質が摂れて、アレルギーになりにくいような気がします。とくにラム肉は脂肪が少なく、人が食べる肉としても美味しくてヘルシー。ダイエットになりそうな良いイメージがありますよね。犬に与える肉としては質が高くて、アレルギー予防にも良さそうな気がしますが、林先生は「実はこれが消費者側の思い込みなのです」とちょっと厳しいのです。

「そもそも食事のアレルギーというのは、今までに食べたことのあるものに対して起こる反応なのです。昔はビーフが主成分のドッグフードが多かったため、もしかして主成分となっているビーフがアレルゲンとなっているのではないか? もしそうならば、今まで食べたことのない成分の羊肉や米を主成分にしたフードはアレルゲンにならないのではないかという考え方が普及したことで、多くのペットフード製造会社が競って『ラム&ライス』を使ったドッグフードを製造するようになり、『ラム&ライス』がもてはやされる時代がありました」(同書より)

そうした背景があるとは知らずに「ラム&ライス」を購入していたとしても、実際にアレルギーにならなければ良いのですが、同書では林先生は「ラム肉でもアレルギーになる可能性はあります」と残念な結論に。「ただ、ラム肉が使われるようになったのは牛肉などにくらべると最近なので、まだアレルギーの報告例が少ないことが考えられます」と同書には書かれています。

「アレルギーを抑えるためにはアレルゲンの入っていないものであれば、別に『ラム&ライス』でなくても良いのです。今ではターキー(七面鳥)だとかフィッシュ(魚)などを主成分にしたドッグフードがあり、その種類はかなり多くなっています。ラム&ライスをはじめ、従来あまり使われていなかった主成分を原料にすることは、飼い主さんに『何となく食事アレルギーになりにくそうだな』という印象をもってもらうのが目的なのです」(同著から)。

もちろんラム&ライスが大好きで、その子に合ったフードである場合や、アレルギー症状が抑えられる場合は与え続けて構いませんし、正しい判断です。アレルギーの知識をもって、ラム&ライスを選択しているかどうか。飼い主さんの漠然としたイメージや思い込みで、何となく質の良いフードであると判断して欲しくないというのが林先生の主張なのです。

ラム&ライスはその例としてあげたもので、決してラム&ライスが悪いフードであるという意味ではないので、誤解しないでくださいね。

こんな顔でせがまれるとつい人の食べ物を与えたくなりますが、それは厳禁。

■ドッグフードは抗酸化があたりまえ?

ドッグフードでは特に「実際は重要ではないことを、ことさらにパッケージで強調して、その製品があたかも良いものであるかのように見せるものもあります」と林先生は言います。同書ではこの代表的なものとして、抗酸化のビタミンと無添加をあげて解説されています。

もともと肉を加工し、常温で長期保存できるドッグフードには、酸化防止剤や保存料としてビタミンCやビタミンEが使われています。でも保存のために利用されている成分をわざわざ取り上げて、ビタミンC配合とか、ビタミンE配合と表示するのは、イメージアップのためではないかと勘繰りたくなりますね。

とくに女性にとって、ビタミンCは美白成分として浸透していますし、風邪予防にも広く使われています。ビタミンEはアンチエイジング、特に老化防止に効果があるとしてサプリメントなどにも含まれています。どちらも身近にあるビタミンなので、犬にとっても何となく良いものだと感じてしまうのです。

これまでも「知ってるようで意外と知らない“犬と人との3つの違い”とは」や、「愛犬の寿命をのばす“犬の長生き食生活”6つの秘訣 」で紹介したとおり、犬と人とは違う生き物である点を林先生は強調してきましたが、今回も同じこと。犬にとってビタミンCは積極的に取り入れなくても体内で合成できます。体内で合成できない人間が食べ物で摂取するために、不足しがちなビタミンとして広く認知されているのです。

健康な犬にとってビタミンCは普段からことさら積極的に摂取する必要はありません。もちろん病気などで体内で合成する能力が落ちている場合は別ですし、抗がん剤としても最近は話題になりましたが、健康な犬にとっては不足しないように特に気を付けるべき成分ではありません。

人の思い込みやイメージでフードを選ばないことが大切だと林先生

■飼い主さんが陥りやすい「無添加」という罠

食品に関連して、私たちがイメージ操作されやすい言葉のひとつに「無添加」があります。林先生は同書の中で、「無添加などはドッグフードとしてありえません」とちょっと厳しく断言されています。「ドッグフードには大なり小なり食品添加物や飼料添加物がもともと入っているからです。ただし、『~は添加されていません』という、あるものを指定する表示なら可能です」と丁寧に解説されています。

着色料無添加と表示されていたら、見た目を良くするためだけの添加物は入っていないとわかります。化学的酸化防止剤無添加と書かれていたら、化学的に合成された物質が加えられていないもので、安心できるような気がしますね、でもそこに落とし穴が潜んでいます。

フードの加工段階ではこれら着色料や酸化防止剤が「無添加」であっても、原材料の肉そのものが薬づけの場合はどうでしょう。日本ではドッグフードの原材料に関しては表示義務がないので、ベースになる肉がどんな肉なのか、パッケージを見ただけではよくわからないのです。

もちろん、多くの信頼できるメーカーは安心・安全な原材料を使って質の高いフードを生産していますが、まれにそうでないフードが流通してしまう。林先生はそうした粗悪フードを駆逐するためにも、飼い主さんがイメージで何となく購入することがないように、と呼び掛けています。

「ラム&ライス」「抗酸化・ビタミン」「無添加」は、それぞれ飼い主さんが漠然とした良いイメージを抱きがちな表示事例です。これら表示を鵜呑みにしないよう、気をつけたいところです。

毎日与えている愛犬の食事について、林先生の本と一緒に、もう一度見直してみませんか?

【参考図書】
『愛犬を長生きさせる食事』
(林文明著、本体1000円+税、小学館)
https://www.shogakukan.co.jp/books/09310837

監修/林文明
日本動物医療コンシェルジュ協会代表理事。ノア動物病院グループ院長。北里大学獣医学修士課程修了。獣医師として実践を積みながら、1998年にはアメリカ コロラド州立大付属獣医学教育病院に留学し、欧米の先進動物医療を学ぶ。現在は、山梨、東京、ベトナムで5つの動物病院を経営。24時間診療、猫専門病院、動物用CT導入による高度医療などの先進的取り組みを行っている。日本動物医療コンシェルジュ協会の代表理事として、ペットの健康と食事に関する食育指導をはじめ、しつけ関連の指導などに力を注いでいる。
■ノア動物病院:http://www.noah-vet.co.jp/

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

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