認知症に関する治療法や予防法について、テレビや新聞で様々な情報を耳にしますが、果たしてそれらは本当なのか、疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、脳と薬を専門とし認知症治療薬の研究を続ける薬学博士の阿部和穂さん(武蔵野大学薬学部教授)の著書『認知症 いま本当に知りたいこと101』(武蔵野大学出版会)から、認知症予防のための食事についてご紹介します。
認知症予防に良いとされている食べ物の真偽
(1)ココナッツオイル
「ココナッツオイルがアルツハイマー型認知症にも効果がある」と言われるようになったのは、あるアメリカの医師の体験談が元となっているのだそうですが、阿部先生によれば、実はデータが少なすぎて、本当にココナッツオイルの効果なのかどうかは、はっきり検証されていないそうです。
(2)カレー
カレーに含まれる「ウコン(ターメリック)」のクルクミンという成分が、ポリフェノールの一種で抗酸化作用を有するため「老化予防効果がある」といわれています。
2004年には金沢大学の研究グループが、試験管内で実験によって「クルクミンにはアミロイドβ蛋白の凝集を防ぐ効果がある」と報告した論文がきっかけで「アルツハイマー病予防に役立つかもしれない」と注目されました。
しかし阿部先生によれば、クルクミンを口から摂取した場合には、消化管からほとんど吸収されないうえに、簡単には脳にまで到達しないとのこと。「カレーを食べれば認知症が防げるわけではないことはわかっていただけると思います」と説いています。
実際、認知症防止に効果がある食べ物は?
一方、研究結果から認知症予防に役立つ食べ物にはどのようなものがあるでしょうか? 同書で阿部先生は、以下の2つを挙げています。
(1)ドコサヘキサエン酸(DHA)
イワシやサバなどの青魚に多く含まれている脂肪の一種で、「動脈硬化を防ぐ効果がある」といわれており、「週2回ほど青魚を食べる人は、認知症の発症リスクが低い」という調査結果も報告されているようです。
(2)野菜や果物
たくさんのビタミンや、抗酸化作用を持つ成分が含まれています。老化は体が「酸化」することによって起こると考えられ、「老化予防には抗酸化物質がいい」といわれていますし、フラボノイドという化合物群には、アルツハイマー病の原因物質とされる、アミロイドβタンパクの凝集を防ぐ作用があるという報告もあります。
このほか緑茶や赤ワイン、コーヒーも認知症の予防に役立つと言われています。
もっとも認知症に関してはいまだ解明されていない部分が多く、予防効果があるとされる食べ物だけ食べれば、必ず防ぐことができるというものではないのです。
「結局はできるだけたくさんの食材から、バランスよく栄養をとることが一番なのです」と阿部先生。
「日本古来の米、野菜、魚を中心とした食生活を心がけていれば、まず問題がないはずです。何か特別な食べ物だけに固執するのは、偏食にすぎず、よくありません。自分の食事内容を見直したときに不足しているものがあれば、少しだけ付け足せばよいのです」(同書より)
脳に良いからと食べすぎたり、栄養が偏ってしまっては体によくないということ。また食事の楽しみを減らしては脳に良いと言えませんね。
無理に食べたくないものを食べるよりも、五感を刺激するメニューや和やかな雰囲気で、食事することの方が脳が喜ぶといえるようです。
【参考書籍】
『認知症 いま本当に知りたいこと101』
(阿部和穂・著/ 野田節美 ・イラスト、 武蔵野大学出版会)
https://goo.gl/h3vGuC
文/庄司真紀