今の時代、サライ世代にとって「生きやすい世の中か?」と問われたら、決して「生きやすい」とは答えられないように思います。それどころか、次第に「生き辛さ」が増しているようにも感じられます。その理由の一つが、社会通念の変化ではなかろうか? と思うのです。

それは、親や先輩、師と仰いだ人たちから指導を受け、身につけた「常識」が大きく変移しているからではないのか? 別の言い方をするならば、社会を円滑に生きるための「世渡りの術」が、機能しなくなってしまった感じがいたします。

しかし、私たちが大きな変移と感じていることも、百年、二百年という単位で見れば、意外と小さな変化なのかもしれません。そのことは、今を生きる人々へ影響を与え続ける先人たちの名言や金言が物語っているように思います。

今回の座右の銘にしたい言葉は「和魂洋才(わこんようさい)」 です。

目次
「和魂洋才」の意味
「和魂洋才」の由来
「和魂洋才」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に

「和魂洋才」の意味

「和魂洋才」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「日本人が伝統的な精神を忘れずに西洋の文化を学び、巧みに両者を調和させること」とあります。「魂」という漢字が使われている通り、これは単に日本の文化と西洋の技術を足し算する、ということではありません。

日本人としての誇りや道徳、精神性といった、決して揺らぐことのない「軸」をしっかりと持ちながら、海外の新しい知識や文化、便利な道具を柔軟に受け入れ、自分たちの血肉として活用していく。そうした、強さと賢さを兼ね備えた生き方の指針こそが、「和魂洋才」の本質です。

「和魂洋才」の由来

この「和魂洋才」という言葉が広く使われるようになったのは、日本が大きな変革の波に洗われた明治時代のことです。もともと平安時代には、中国(唐)の文化や学問(漢才)を取り入れる際に、「和魂漢才(わこんかんさい)」という言葉が使われていました。日本の精神を保ちながら、大陸の知識を学ぶ、という姿勢です。

そして、幕末から明治維新にかけて、今度は西洋列強という新たな存在と向き合うことになった日本。その国家存亡の危機において、近代化を推し進めるためのスローガンとして「和魂漢才」をアレンジした「和魂洋才」が生まれました。

西洋の優れた技術や制度を積極的に学びながらも、日本の魂は決して失わない。この強い意志が、日本の驚異的な近代化の原動力となったのです。

現代まで続く日本の「ものづくり精神」や「おもてなしの心」なども、この「和魂洋才」の精神から生まれているといえるでしょう。

「和魂洋才」を座右の銘としてスピーチするなら

「和魂洋才」を座右の銘として紹介する際は、単なる言葉の説明に留まらず、自分自身の人生経験と結び付けて語ることが大切です。特にシニア世代の皆様には、これまでの豊富な経験があるからこそ語れる重みがあります。以下に「和魂洋才」を取り入れたスピーチの例をあげます。

定年退職の挨拶としてのスピーチ例

40年という長い年月を振り返りますと、様々な思い出が胸に去来いたします。

私が座右の銘として大切にしております言葉に、「和魂洋才」というものがございます。日本の精神を軸に、西洋の知恵や技術を取り入れる、という意味です。

私が入社した当時はまだ、そろばんや電卓と手書きの台帳が当たり前の時代でした。それが、いつしかパソコンが導入され、今ではAIが仕事を助けてくれるまでになりました。正直、新しい技術を覚えるのは骨が折れることもありましたが、その度に「まずはやってみよう」と挑戦してまいりました。

なぜなら、どんなに便利な道具や新しい仕組みを取り入れても、私たちの仕事の根底にある「お客様に喜んでいただきたい」という想い、仲間と協力し合う「和」の心だけは、決して変わらないと信じていたからです。

日本人としての心の軸をブラさずに、新しい風を柔軟に受け入れていく。この「和魂洋才」の精神は、私がこの会社で学んだ最も大きな財産であり、これからの第二の人生においても、大切にしていきたい指針です。

最後に

「和魂洋才」とは、単なる四字熟語ではなく、変化の激しい時代をしなやかに、そして力強く生き抜くための、先人たちの知恵であり、生き方そのものです。経験を重ね、伝統の良さと新しい世界の面白さの両方を知るサライ世代の皆さまにこそ、この言葉は深く響くのではないでしょうか。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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