「20代のうちに、英語ができる女と結婚しろ」

雅史さんは、研修のあと希望していた鉱物資源関連の部署に配属された。

「研修中は箸の上げ下げも気を使いました。50人ずつ分かれて参加する研修には、運動、ゲーム、討論、マナーなどいろんなメニューがありましたが、この時の記憶はない。ただここで、上位のチームに入ったという手応えのようなものはありました。

希望していた部署に配属され、海外出張にも同行させてもらいました。おおらかで聡明な東大卒の先輩が、丁寧に教えてくれたので、仕事で大きなミスはなかったと思います」

遅刻も欠勤もせず、飲み会も全力で参加し、とにかく懸命に働いたという。

「仕事の目標を達成するほど、業務上で専門的な資格が必要になる。学生のうちに財務諸表は見られるようになっておきたいと、簿記3級を取っていましたが、2級も必要になり、勉強して取りました」

資格のほかにも、取引先の国の文化や法律の勉強、さらにゴルフのレッスンなど、学生時代以上に勉強した。

「“仕事の報酬は仕事”と心から思いました。守られた環境で、次の挑戦ができる。スキルアップをして成果を出せば、新たな強敵がやってくる。それを倒せば上に行ける。妹の結婚式の時に帰省し、仕事の話を聞かれて話すと“少年マンガみたいだね”と言われ、その通りだと思ったことを覚えています」

30歳あたりまでは、出世マラソンのトップを走っていたという自覚はある。

「38度の熱を出しても会議に出ましたし、血尿を出しても出張に行きました。上司からの新しい仕事の相談に対して“厳しいです”と言えば、“じゃ、別の人に頼むよ”と言われることはわかっている。返事は常に“ハイかYES”で突っ走ってきました」

出世に影響を及ぼしたと思う出来事がたった一つだけある。それは北米出張時の上司宅でのホームパーティだ。

「あれは27歳だったかな。基本、若手は呼ばれないのですが、たまたまお誘いいただき、扉を開けると貴族の世界でした。パーティルームに10人以上の社員がいて、それぞれの奥様方は着物やドレスを着て、歓談をしている。お手製の料理もワインも豪華なんです。

奥様方はいいところのご出身か、元客室乗務員、ピアニストなどで、みなさん容姿端麗。そういう時代だったんです。僕が驚いていると、当時の課長が、“出世したかったら20代のうちに、英語ができる女と結婚しろ”と。

その時、仕事に夢中だったので“僕には結婚なんて早いですよ”と鼻で笑ってしまった。それに課長はちょっと白けていました」

その後、雅史さんは同期のトップ集団同様、30代前半で係長になる。

「あの時の喜びは、この人生で生きてきて最大の嬉しさでしょうね。嬉しくて家で叫びましたから。今思えば、人生が単純だったってことですよ」

【出世のスピードが目に見えて落ちていく……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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