取材・文/ふじのあやこ

一緒にいるときはその存在が当たり前で、家族がいることのありがたみを感じることは少ない。子の独立、死別、両親の離婚など、別々に暮らすようになってから、一緒に暮らせなくなってからわかる、親やきょうだいのこと。過去と今の関係性の変化を当事者に語ってもらう。
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文部科学省の発表によると、令和5年の小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は732,568件(前年度681,948件)であり、前年度から50,620件(7.4%)増加。認知件数は新型コロナウイルス感染症の影響で令和2年度に一旦減少したが、その後3年連続増加し、過去最多となった(令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査)。
今回お話を伺った美玖さん(仮名・44歳)は、中学生のときにいじめに遭った過去を持つ。いじめは無視から始まり、階段から突き落とされることもあった。いじめが原因で不眠症状を患い、成績が一気に下がってしまったことでいじめの事実を知らない親から心配されるようになったという。【~その1~はこちら】
兄は泣いた妹に何も言わなかった
美玖さんは同じ学校の生徒が多く通う塾に行くことを拒否し、親は塾を無理強いはしなかった。しかし、成績は下がる一方。そこで成績優秀の兄に家で勉強を教えてもらうことになったという。
「私が中学生のときには兄はもう大学生で、家庭教師のアルバイトをしていました。だから、親はバイト代を出すから妹を教えてあげろと兄に言ったみたいです」
塾では専用の教材を使うが、兄との勉強では学校の教科書を使用するしかなかった。落書きや破られた教科書を兄に見られ、そこでいじめられていることを知られてしまう。
「汚された教科書を見て、『お前、いじめられてるのか?』と、兄は聞いてきました。最初こそ、そんなことないと笑顔で否定していたんですが、否定を続けていくうちに私は泣いてしまって……。『お母さんには言わないで』と泣いて兄に訴えました」
その場で兄は何も言わなかった。勉強も中断し、兄はマンガを美玖さんに渡してきたという。
「私の部屋で勉強を見てもらっていて、私が泣いてしまったことで兄は何も言わずに自分の部屋に戻ったので、親に言う準備をされていたらどうしようと不安でいっぱいでした。でも兄はすぐに私の部屋に戻ってきて、私にマンガを渡してきたんです。勉強時間は2時間と決められていたからか、兄は持ってきたマンガを私の部屋で読み始めました。なんか会話もなく、ただ2人で黙々とマンガを読む空間がなんだかおかしくて、気づいたら涙は止まっていましたね」
【親に伝える勇気を兄からもらった。次ページに続きます】
