「孝行のしたい時分に親はなし」という言葉がある。『大辞泉』(小学館)によると、親が生きているうちに孝行しておけばよかったと後悔することだという。親を旅行や食事に連れて行くことが親孝行だと言われているが、本当にそうなのだろうか。

2025年は、団塊の世代の全員が後期高齢者になる年だ。超高齢化時代が到来し、「介護難民」「介護崩壊」といった単語も目につく。また、給付金の不正請求や人手不足などで介護サービスを運営する企業が倒産するニュースも目にする。

東京都内の自宅で息子(43歳)と孫(15歳)と男3人で暮らしている洋治さん(73歳)は「胃がんで余命半年と言われたけど、もう3年も生きている。これは家で息子と孫と生活しているからかもしれない」という。

【これまでの経緯は前編で】

「もっと早くに来ていれば」と言われた

洋治さんは、57歳の時に、62歳の妻を看取った。妻の看護のために自動車部品メーカーを辞めていて無職だった。

「妻が亡くなった喪失感は激しく、気づけば後を追いそうになっている。死にひき込まれてしまうんですよ。多分、死神が来ていたと思う。犬がよく吠えていたので、追い払ってくれていたんでしょう。仕事でもしなければ、引き込まれてしまうと、工業機械関連会社に再就職しました」

顧客の要望に従い、機器を設計する仕事にのめり込んだ。

「一時期、昼も夜もなく働いて、仕事中毒のようになっていました。妻がいたリビングに帰りたくなくて、会社近くのサウナで寝たこともありました」

その頃、息子は勤務先のIT関連会社が海外進出することになり、そのチームに抜擢された。

「僕らの世代は、海外に対して強い憧れがある。それもアメリカですよ。僕たちが焦がれていたアメリカに息子が住むんだと思った時に、“俺も頑張ろう。もっと生きよう”と思ったんです」

海外勤務は、家族にも影響を及ぼす。当時30歳だった息子は、単身で海外勤務する道を選ぶ。2歳の孫と嫁は日本に残ることになった。

「息子の嫁さんは危なっかしい人で “一人で残して大丈夫かな?”と思っていたら、気が付けば別の男性と浮気して離婚することに。孫は向こうの実家が育てることになりました。向こうのご両親は“娘がだらしなくて申し訳ない”と言いましたが、“最初から分かっていましたよ”とも言えず、神妙な顔をしているしかなかった」

とはいえ、60代の夫婦が、孫を育てるのは体力的に無理がある。

「僕はあの当時、土日は酒びたりの空虚な時間を過ごしていました。向こうの家とは一駅しか離れていないこともあり、土日、孫がうちにくることに。結果的に、それがとても良かった。向こうの家はしつけをしない。孫が“いただきます”と“ごちそうさま”を言わなかったり、靴をそろえなかったりと、細かいところができないと気づいたんです。そういうことは、一事が万事で社会に出た時に本人が不利になる。そういうことを根気よく教えていきました」

宿題を期日通りに提出する、挨拶をする、持ち物の確認をするなども教えた。

「できなくてもいいんです。教えることが大切なんですよ。自分の血がつながった子供に、いろんなことを教える機会を作ってくれた息子に感謝しています。子供のことが好きじゃないのに、孫は可愛い。本当に可愛いんです」

【進行している胃がんが見つかったとき、支えてくれたのも息子だった…次のページに続きます】

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