年金は、年をとったときにもらえる老齢年金だけではありません。遺族年金は、一家の働き手や年金を受けとっている人が亡くなったとき、家族に給付される年金です。実際に家族が亡くなったときに、遺族年金について何をしたらいいかわからないという人も多いのではないでしょうか。

遺族年金には、国民年金の遺族基礎年金と厚生年金の遺族厚生年金がありますが、今回は、遺族厚生年金を中心に人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
遺族厚生年金の全体像を理解する
遺族厚生年金の受給対象者と支給条件
遺族厚生年金の受給額と計算方法
遺族厚生年金の申請と手続き
まとめ

遺族厚生年金の全体像を理解する

遺族年金の仕組みは、複雑でわかりづらい制度です。まずは、遺族厚生年金の基本について見ていくことにしましょう。

遺族厚生年金とは何か

厚生年金は、「労働者の老齢、障害、又は死亡に関して保険給付を行なう」と定められています。国民年金の対象者は国民ですが、厚生年金の対象者は「労働者」です。つまり、適用事業所に雇用されていたことのある人が受けられる年金です。この場合の「障害、又は死亡」というのは、業務災害であるかどうかは問われません。

遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者、または被保険者であった人が亡くなったとき、その人によって生計を維持していた家族に給付される年金ということになります。

遺族厚生年金の目的と役割

遺族厚生年金は、亡くなった人の遺族の所得補償を目的としています。国民年金の遺族基礎年金の2階部分として支給されることもありますが、対象となる遺族の範囲や条件が異なるため、遺族厚生年金のみを受け取る場合も多くあります。遺族の年齢などに配慮して、生活に窮することのないように制度設計がなされています。

遺族厚生年金の受給対象者と支給条件

遺族基礎年金を受給できるのは、一定の条件を満たした子と子のある配偶者だけです。遺族厚生年金の受給者の範囲は、遺族基礎年金より広くなっていますが、様々な条件が設けられているので確認していきましょう。

受給対象者の範囲

遺族厚生年金は、次に挙げる遺族が対象になります。しかし、受給には優先順位があり、最も先順位の遺族のみが受給者になります。

第1順位 子のある配偶者、子
子のない妻、子のない55歳以上の夫
第2順位 父母
第3順位 孫
第4順位 祖父母

このうち、子と孫については18歳に達した年度の3月31日まで。または、20歳未満で障害等級1級また2級であることが条件になります。また、子のない30歳未満の妻は、5年間のみしか受給できません。子のない夫と父母と祖父母は、55歳以上なら受給権がありますが、支給は60歳からになります。

遺族厚生年金の支給条件

遺族厚生年金が支給されるためには、亡くなった人が次のいずれかの要件を満たしている必要があります。

(1) 厚生年金の被保険者が死亡したとき
(2) 厚生年金の被保険者であった期間に初診日のある傷病で初診後5年以内に死亡したとき
(3)1級・2級の障害厚生年金の受給者が死亡したとき
(4) 老齢厚生年金の受給者が死亡したとき
(5) 老齢厚生年金の受給資格を満たした人が死亡したとき

(4)(5)の場合は、保険料納付期間や保険料免除期間を合わせて25年間以上あることが条件になります。

これらの要件は、(1)(2)(3)を短期要件、(4)(5)は長期要件と呼ばれています。短期要件の場合は被保険者期間のうち、保険料納付済期間と免除期間があわせて3分の2以上あるなどの保険料納付要件があります。

遺族厚生年金の受給額と計算方法

国民年金の遺族基礎年金は定額ですが、老齢厚生年金は死亡した人の年金額や支給要件などによって異なります。具体的な計算方法を見ていきましょう。

受給額の基本的な計算方法

遺族厚生年金の額は、原則として死亡した人の被保険者期間を基礎として、計算した老齢厚生年金額(報酬比例部分)の4分の3になります。ただし、短期要件に該当する人で、被保険者期間の月数が300に満たない場合は、月数300として計算されます。

65歳以上の配偶者に対する年金額

遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金は、同時にもらうことはできません。65歳以上の配偶者の場合の遺族厚生年金は、次の2つの計算式から1つ選択することができます。

(1)原則の計算の額
(2)原則の計算額×3分の2+自分の厚生年金の額×2分の1

どちらが高くなるかわからないという人もいると思いますが、年金は、トータル金額が多くなるほうが自動的に選択されて支給されます。

加算される年金額とその仕組み

国民年金の遺族基礎年金は、子のない妻に対しては支給されないので、子の有無で格差が生じてしまいます。その格差を是正する意味で、遺族厚生年金には「中高齢寡婦加算」という制度があります。これは、夫の死亡当時40歳以上65歳未満である妻の遺族厚生年金に、妻が65歳になるまで一定の加算がされる仕組みです。

子のある妻は、夫の死亡時に40歳未満であっても、40歳当時遺族基礎年金の対象となる子があれば支給されます。金額は、国民年金の遺族基礎年金の3分の2の額であり、令和6年現在、612,000円となっていますので、かなりの金額といえますね。ただし、妻が遺族基礎年金を受け取ることができるときは、中高齢寡婦加算は支給停止になります。

遺族厚生年金の申請と手続き

遺族厚生年金は、生計を維持していた人が亡くなった翌日から5年以内に請求しなければなりません。用意する書類も多数あり、手続きにも時間がかかります。まず、年金事務所または街角の年金相談センターで、年金請求書を入手しましょう。日本年金機構のホームページで、ダウンロードすることもできます。請求には、以下の書類が必要になります。

・年金請求書
・年金手帳
・家族全員の住民票の写し
・亡くなった人の住民票の除票
・子の収入が確認できる書類
・死亡診断書のコピーまたは死亡届の記載証明書
・受け取る金融機関の通帳

これらの書類は、マイナンバーを記入することで省略できるものもあります。また、死亡の原因が交通事故第三者によるものである場合は、別に書類が必要になります。年金事務所に問い合わせて確認しましょう。

なお、老齢厚生年金は電子申請が可能ですが、遺族厚生年金は必要書類や確認事項が多いため電子申請はできません。手続きをしてから60日前後で、「年金証書・年金決定通知書」が届きます。振込開始はさらに1~2か月後になりますので、手続きには3か月から4か月かかると考えておいたほうがいいでしょう。

まとめ

一家の働き手が亡くなると、遺族は今後の生活費の問題に直面することになります。遺族年金は残された家族にとって強い味方です。ただし、複雑で難しい制度なので、年金事務所などに相談しながら手続きを進めましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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