母親と離れて暮らすことは考えられない
終電で帰って始発で会社に行くような生活の中でも香苗さんは会社の近くで1人暮らしをしなかった。その理由は、母親に無理してまで働いてほしくなかったからだ。
「離れて暮らすと、母親はきっと私に頼ってこようとはしません。アルバイトのときのお金を家に入れるといってもなかなか受け取ってくれなかったし、団地からマンションに引っ越しするときも母親は遠慮するばかりで私が無理やりに押し切ったんです。だから母親には目の届くところにいてもらって、無理をしていないかチェックしないと。母親と離れて暮らすことは考えていません」
香苗さんは整った容姿をしており、小さい頃から大人と付き合っていたからか、人当たりもよくモテそうに見える。しかし、異性と付き合ったのは1人で、期間も1年弱しかない。しかしそれに対して後悔はないという。
「昔は友人からよく異性に目を向けろと言われていたけれど、特に興味が持てなかったんです。若いときは今よりも仕事ばかりで忙しかったですからそれどころじゃなかった。恋愛よりも他のことを優先していたら、いつの間にか何もないことが普通になっていました」
貧しかったこと、親に頼れなかった環境を香苗さんはマイナスに捉えていない。「その分、生きる術を身につけることができた」という。小さい頃に親に頼れなかった子どもは、大人になると誰にも頼ることができなくなると言われている。しかしそれは頼りたいときに頼れなかったときの話。頼る必要がないと自分が判断できて納得できているのであれば、その環境は毒とはならないのだ。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。