定年退職の年齢が上がっている。かつては60歳だったが高齢者雇用安定法が2021年に改正され、企業に60歳未満の定年を禁止し、65歳までの雇用確保措置(「定年制の廃止」・「定年の引上げ」・「継続雇用制度の導入」のいずれか)が義務付けられた。また、65歳から70歳までの就業機会の確保が努力義務になった。
定年退職にまつわる、厚生労働省の最新データ『高年齢者雇用状況等報告』(2022年発表)をひもとくと、65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%。70歳までの高年齢者就業確保措置を実施している企業は27.9%に過ぎなかった。
人生100年と言われている時代、定年後の長い人生をどのように過ごせばいいのか、さまざまな定年後の人生を歩く人々にインタビューを重ねていく。
定年後、仕事を探して20以上の面接を受けるも不採用
現在、東京都江戸川区で一人暮らしをしている恵美子さん(72歳)は、12年前にそれまで勤務していた会社でのキャリアを終えた。
「バツイチで独身、子供もおらず、友達がいるタイプでもない。30歳の時に離婚してから、その会社の面接を受けて採用されたんです。ずっとそこで仕事をしていたので、60歳で定年を迎えたときに、これからの人生をどう生きればいいか、足元の床板が抜けるような不安に陥りました」
定年の年齢は会社が自由に決められる。ただ、高齢者雇用安定法で、60歳未満の定年は法律上無効になる。
「60歳で定年というのはあまりにも若い。私も“まだ働きたい”と思いながらも、再雇用だと給料がかなり減るし、会社の後輩にとっても私はお荷物だと思ったんです。だから、別の仕事を探すことにしました。でもこれが不採用の連続。当時の私は甘かった。まず受けた塾の事務は門前払い。その後の事務系も不採用で、清掃やファストフードもダメ。20以上の会社に履歴書を出してもダメでした。定年でダメージを受けたところに、不採用の嵐でこのときはうつっぽくなりました」
再就職活動をめげずに続け、恵美子さんは介護施設の補助要員として雇われる。しかし、介護の仕事は重労働で職場環境も悪く、すぐに退職した。
「その施設は、新人に100キロ近い人の入浴を手伝わせたり、おむつを替えさせたりするんです。膝と腰はパンパンになるし、いじめにも遭いました。40代のリーダーから、仕事がなかなか覚えられないことをバカにされたり、あからさまに舌打ちされたり、暴言を吐かれたり……言われた通りにしているのに、OKをくれなかったりして、1か月で辞めました」
それまで勤務していた会社は、多くの社員が四大卒で、雰囲気も落ち着いていた。恵美子さん自身も大学を出ており、知的な雰囲気をまとっている。仕事を続けてきて、理不尽な思いを基本的にしたことがないから、介護の現場のハラスメントに驚いてしまったのだという。
「私が勤務していた会社は、社員が1000人規模とそれなりに大きい会社なので、“社員としての行動規範”があったんです。それは、正しい利益を得るために、自分たちはどう判断し、どのように行動すればいいかを考える“問い”のようなものなのですが、私が入った介護関連会社にはそれがなかった。だから、利用者さんや立場が弱い人へのハラスメントが横行していたように思います」
その後も、職探しを続け、現在のデイホーム施設に採用される。そこの水があったのか、もう10年以上働いており、勤務は週に3回、1日4時間程度だという。
「いつの間にか、年下の介護をするようになっていました。とはいえ、年齢もあるので、これが本当につらい。暑かったり雨が降っていたりすると“休もうかな”とか“仕事を辞めようかな”と思うのですが、家にいてもお金にならないし、社会とのつながりが消えてしまう。それがとても怖く、頑張って出勤しています」
【痛い膝や腰を奮い立たせて職場に行く……次のページに続きます】