失業等により経済的な状態が悪化した場合、毎月の国民年金保険料の負担は非常に大きくなります。支払いが困難だからといって、未納のまま放置すると、将来もらえる年金が減額されるだけでなく、万一障害を負った場合に受け取ることができる障害年金の受給ができなくなることも。また、滞納期間が長期間になると財産が差し押さえになる可能性も出てくるのです。このような状況を回避する手段の一つとして、「国民年金免除制度」があります。

そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、国民年金保険料の免除についてご説明いたします。

目次
国民年金保険料の免除制度とは?
国民年金保険料の免除の申請方法は?
国民年金保険料の免除制度を利用するメリット・デメリットは?
免除制度を利用できない場合はどうする?
まとめ

国民年金保険料の免除制度とは?

経済状態の悪化により所得が少なくなった場合で、世帯(家族)全体の所得が低下した場合、ご本人から申請書を提出することにより、その申請の内容が承認されると保険料の納付が免除になるのです。

免除される額は、所得の大きさによって下記の4種類に分類されます。世帯は、本人・世帯主・配偶者の事を指し、世帯主とは、生計を一にしている家族(生活費を共有している家族)の代表者のことです。

(1)全額免除
(2)4分の3免除
(3)半額免除
(4)4分の1免除

保険料免除・納付猶予の承認基準

免除される金額は所得の大きさにより異なり、具体的には下記の通りです。

(1)全額免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
(扶養親族等の数 +1)× 35万円 + 32万円(※)
(※)令和2年度以前は22万円

(2)4分の3免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
88万円(※)+ 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等
(※)令和2年度以前は78万円

(3)半額免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
128万円(※)+ 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等
(※)令和2年度以前は118万円

(4)4分の1免除
前年所得が以下の計算式で計算した金額の範囲内であること
168万円(※)+ 扶養親族等控除額 + 社会保険料控除額等
(※)令和2年度以前は158万円

上記以外の場合でも失業等による特例免除があり、具体的には失業した場合に申請することで、保険料の納付が免除になったり、保険料の納付が猶予となる場合があります。

国民年金保険料の免除の申請方法は?

国民年金保険料の免除を申請する方法は、窓口・郵送提出の場合とマイナポータルを利用した電子申請があります。

窓口・郵送提出の場合

まず、「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」を日本年金機構ホームページ、またはお住まいの市(区)役所や、町村役場の国民年金担当窓口、お近くの年金事務所にて入手します。そして、必要事項を記載したのち、上記役所の窓口もしくは郵送でご提出ください。

マイナポータルを利用した電子申請

マイナポータルによる申請方法は下記の通りです。

1、マイナンバーカードをご準備いただき、マイナポータルへアクセス

2、マイナポータルのトップ画面の「年金の手続をする」を選択し、マイナポータルへログイン

「国民年金に関する手続き」画面で、希望する手続きを確認し「手続に進む」を選択し、マイナンバーカードの読み取りを行ってください。

3、案内に従い必要事項を入力して申請を行なう

免除申請の期間は、過去2年(申請月の2年1か月前の月分)まで遡って申請することが可能です。例えば、令和6年3月に申請する場合は、令和4年2月まで遡って申請できます。

なお、全額免除の承認を受けた方が、翌年度以降も引き続き、全額免除の承認を希望する場合は、申請は不要です。ただし、失業等を理由とした特例による免除承認であった場合には、翌年度も申請書の提出が必要となります。

※審査は、住民税の申告内容をもとに行いますので、所得の申告を忘れずに行ってください。

国民年金保険料の免除制度を利用するメリット・デメリットは?

国民年金保険料の免除制度を利用した場合のメリットとデメリットについてご説明します。

メリット

一番のメリットとしては、ご自身の金銭面での負担が減るということです。

保険料が免除された期間は、老齢年金を受け取る際に全額免除の場合は2分の1、4分の3免除の場合は8分の5、半額免除の場合は8分の6、4分の1免除の場合は8分の7が受け取れます。

保険料免除・納付猶予を受けた期間中に、ケガや病気で障害や死亡といった不測の事態が発生した場合、障害年金や遺族年金を受け取ることが可能です。

同じく保険料免除・納付猶予や学生納付特例の承認を受けた期間の保険料については、後から納付(追納)することにより、老齢基礎年金の年金額を増やすことができます。また、追納分は社会保険料控除により、所得税・住民税が軽減されます。

デメリット

老齢基礎年金の年金額を計算するときに、保険料の免除・納付猶予や学生納付特例の承認を受けた期間がある場合は、保険料を全額納付した場合と比べて年金額が低額になります。納付猶予や学生納付特例の期間は、年金の受給資格期間として計算されますが、年金額には反映されません。

免除制度を利用できない場合はどうする?

もし免除制度が利用できない場合には、納付猶予制度を検討するとよいでしょう。免除申請が利用できない場合の主な原因は、世帯の収入が基準よりも低下していないケースが考えられます。納付猶予制度は、所得の判定要件の対象者が免除の場合と異なります。

免除は、本人・配偶者・世帯主、それぞれの前年所得が審査の対象となりますが、納付猶予は本人と配偶者の前年所得で判断されるのです。仮に世帯主の収入が高く免除制度の適用を受けれない場合でも、本人と配偶者の前年所得が低ければ適用が可能になります。

ただし、免除された期間は、将来受け取る年金額に一定額(全額免除の場合で2分の1)反映されるのに対し「納付猶予」の期間は、将来受け取る年金額には全額反映されません。しかし、免除と同様、追納が可能なため、10年以内に保険料を「追納」することができます。

まとめ

経済的な理由により国民年金を支払えない場合、未納のまま放置すると障害を負ったときに年金をもらえなかったり、将来もらえる年金が減額されるなど、様々なリスクが発生いたします。今回ご紹介した、免除制度を利用すれば、上記のようなリスクを回避することが可能です。

年金の未納は、将来のライフプランに大きな影響を与えるリスクがあります。未納という選択肢は回避し、免除や納付猶予制度を検討して将来のリスク軽減を図るのがよいでしょう。

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com

 

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