親は私からフェードアウトした
果歩さんに対して“男性にだらしない”というような噂が社内でされるようになり、このことで仕事を辞めることを決意する。これが二度目のリセットのきっかけとなった。
「今振り返れば、社内でそんなことをすれば女性からは嫌われ、男性からは軽く扱われることなんて当然なのに、あのときは自分がモテていると勘違いしていたんですよね。それまでは仕事帰りに軽く飲みに行く同僚などもいたのに、徐々に避けられるようになって、結局独りぼっちになりました。こんなとき、一度リセットしているから相談できる人がいないんです。その職場からつながった東京での人間関係しかなかったから……。
それでも仕事を辞めたくなくて、最初のほうは男性社員を避けるようにして、女性社員に気を遣って積極的に輪に入ろうとしたんです。意味はなかったですけど。それで、もうどうでもいいとなって。またイチから別の場所で人間関係を作ろうと思いました」
その企業を辞めたときには31歳。そこからなかなか再就職がうまくいかなかったものの、現在はその後に勤めた企業で仕事を続けている。
また、都内で引っ越ししたときには保証人ではなく賃貸保証会社に契約することが必須であり、母親と連絡を取るきっかけはなくなった。上京してから一度も帰省はしておらず、家族からの連絡も一切ないという。
「親との縁切りや疎遠になったという話を聞くと、毒親など何か理由がある場合を想像すると思いますが、私は何の理由もなく、お互いに連絡することがないだけ。嫌いという感情さえない、無関心な関係で疎遠になったんです。SNSで仲良くなった人がいるんですが、大きな理由がないものの親と疎遠という人が意外と多いんじゃないのかなって話してます」
冒頭で紹介した調査では、親をリセットしたい人にあげる人は全体の9%となっている。これは友人や職場の人をリセットしたいと思う人と同数である。自分自身について人間関係がうまく形成できないと思っている人は、どんなに良好な付き合いができていたとしても人付き合いに多少のストレスが生じる。「人間関係リセット症候群」は悪のように取り上げられていることが多いが、人間関係のストレスから逃げ出して自分を救おうとする防衛反応とも捉えることができる。たとえ家族とだって大きな理由もなしに合わないと感じる人はいる。それを肯定することでもっと生きやすくなるのではないだろうか。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。