死が迫る生活は、旅行だ食事だとお金を使ってしまっていた

しかし、その妻は65歳のときに胃がんになる。定年後、親の介護に追われひと段落したタイミングだったという。「さあ、これから夫婦で人生を楽しもう」というときにがんが見つかり、緊急手術をする。しかし、予後が悪く、腸閉塞や発熱などで入退院を繰り返した。

「食道がんも見つかって、もうダメだと。それで、いろんな人にすすめられるまま、あやしいサプリを試したり、転地療養、祈祷、免疫細胞治療などなどあらゆることをやったよ。旅行もしたよ。病気にいいとアメリカのセドナまで行ったから。それが気分転換になったのか、9年間生きてくれたからよかったけれど、自費治療もあったから、3千万円くらいあった貯金はかなり減ってしまった」

妻は65歳から年金を受給しており、その金額は月12万円程度だったという。

「いつ死ぬかわからないから、受給開始とともにもらうことにした。それで74歳で死ぬまでの9年間、2人の年金を合わせると、毎月15万円以上の収入があったわけ。あの頃は女房のお兄さんが持っていたマンションを格安で借りていたんだよね。病院も近いし、車いすの移動になった時も楽だって。とはいえ、死が迫っている生活だから、ついついお金を使っちゃっていた」

康夫さんの手厚い看病もあり、妻は胃がんの発見から9年間生き、5年前に74歳の生涯を終える。

「それで、女房の望む通りの葬式を出したの。トータルで200万円くらいかかったかな。女房も“まだ、金はある”と思っていたんだろうね。でも、いろいろ書類を見ると、入っていると思った生命保険が解約されていたり、思ったより貯金がなかったりして“これはヤバいぞ”となったわけ」

妻の兄は康夫さんの献身を見ていたので、マンションに住み続けてもいいと言ったが、人の好意に甘えるとろくなことにならないというのは、今までの人生で学んでいたので断った。

「これが人生最後の引っ越しになる。それなら、生まれ育った23区内に戻ろうと、区の窓口に相談したの。女房の死後の手続きで、役所の人が親切だってわかったから、軽い気持ちで行ったのね。そしたら、今住んでいる高齢者向けの住宅について教えてくれた。アドバイスに従って、ひとまず住民票を娘のところに置いてもらい、半年くらい家の片づけやいろんな手続きをして、無事に入居することができた。兄さんには“リフォーム代です”って30万円包んで、久しぶりのひとり暮らしが始まった」

【金がないから孫に会いたくない……後編へと続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などに寄稿している。

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