外国人の友人に笑われる、異様な恰好は日本の恥
コロナによる、渡航制限が撤廃されたら仕事が忙しくなった。海外出張なども重なり、念願のハワイゴルフは、夏に持ち越された。
「それで、やっとこさ行ったのよ。弓子はご主人が持っていたコンドミニアムの売却というミッションがあったから、先に入っていた。私が到着したら、空港に迎えに来るというので、出口を見るとそれらしい人はいない。ただ、ひとりハワイなのに長袖長ズボンで、顔に変なマスクをしていて耳まで覆っている怪しい宗教家みたいな人がいるわけ。なんか、ヤバい人がいるなと思ったら、その人が“智子”ってくるの。びっくりしたら弓子なわけ」
弓子さんは日焼けを恐れて、紫外線対策をしているのだろう。日本人女性の美的感覚は、日焼けを避ける傾向にある。
「弓子が言うには、目的は美ではなく、がんや老化の予防だと。老化の原因は“光老化”という紫外線が原因だと力説するんです。それで、他の外国人の好奇の目を受けながら、駐車場まで行き、ホテルへ。夜に出歩くときは普通の弓子なんだけれど、日中はまた化け物に戻る。“やめてよ”って言っても、日焼けが怖いという」
智子さんと弓子さんの目的はゴルフだ。しかも、ゴルフは智子さんのかつての上司や同僚などのゴルフ好きが参加する。弓子さんに「異常なカッコはやめてよ」と釘をさすも伝わらなかった。
「翌日はもっとすごかった。長袖長ズボンにスカートに帽子。サングラスにマスクで1ミリも肌を露出していないの。それなりのクラブで、ノースリーブはダメなどのドレスコードはある。でも、弓子の格好は違反していないわけ。でも明らかに異常。私の友達からは“あのクレイジーな人は、あなたの友達なの?”と言われて恥ずかしく、ゴルフどころじゃなかった」
その翌々日も同じ格好をしていたときは、さすがにキレた。「日焼けが怖いなら、ハワイにくんな」と恫喝したのだ。
「そしたら、泣いちゃったのよ。こっちも怒ってしまって後悔するし、そんな姿を仕事関連の人に見られるし、お金をかけて時間を使ってきたハワイで、モヤモヤとイライラに包まれるのがばかばかしい。それもこれも、弓子が原因なんですよ。同じ相手に二度裏切られるとは思わなかった」
日焼けだけではなく、ほかにもあった。弓子さんは夜の食事の最中に、太ることを気にして食べなかった。
「私の友達がホームパーティに呼んでくれたから、美味しく食べるのが礼儀。私が弓子の分まで食べていると、“智子はよく食べるね。私は少食だから無理”と呆れたように言っていたんです。人の食べるものをいちいちチェックして、“それは太る”とか“先に野菜を食べなさい”とかうるさいのなんのって」
美容意識の差によって、友情は終わりを迎えたという。弓子さんからは「智子、機嫌を直して」という連絡が来たが、全て無視した。
人間は年齢を重ねると「自分が絶対に正しい」という思い込みにとらわれるという。ただ、それを一人でやっていればいいが、相手にも「あなたもこうするべきでしょ?」と強要するとひずみが生まれる。その線引きをするかしないか、それが問題なのかもしれない。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。