一般的に「ハラスメント」と言うと、組織において権限のある立場の人や年長者が加害者となることが多く、サライ世代の方々は十分な注意が必要です。ところが時代の変遷によって、組織において何らかの権限の持つ人が“被害者”になるケースも起こっています。  

「そんなことがあるのか…?」と、おおよそ信じられないという方もいらっしゃるかもしれませんが、近年では部下から上司がハラスメントを受けることも増えてきており、そのことは「部下ハラ」と呼ばれています。

本記事では、社会保険労務士の塚原美彩が、その「部下ハラ」の具体例をご紹介するとともに、どうすれば“被害者”にならないかについて解説しております。ぜひとも、ご参考になさってください。

目次
部下からのハラスメント“部下ハラ”とは?
部下からのハラスメントの具体的な事例
部下ハラを避けるために知っておきたいこと
最後に

部下からのハラスメント“部下ハラ”とは?

部下ハラとは、部下が上司に対して行なうパワーハラスメントの略称です。そのあり方は様々ですが、総じて“部下による上司いじめ”や“嫌がらせ”と言い換えると、わかりやすいかもしれません。ここからは、部下からの嫌がらせには、どのようなものがあるのかを解説します。

部下からの嫌がらせの例

部下からの嫌がらせとして代表的なものは、集団による無視です。学生のいじめのようで驚く方もいらっしゃるかもしれません。ですが、部下が集団で上司を無視するという行為は、様々な企業で散見される事例です。

部下からの暴言の例

部下から暴言を浴びせられるという事例もあるようです。例えば、容姿を揶揄するなど、品の無い事例も、残念ながらあると聞きます。また、「よく管理職になれましたね」などのように露骨な嫌味を言われたという事例も耳にします。

部下が上司の指示に従わないハラスメントの例

特に、マネジメントを行なう人間からして最も困るのは、指示に従わない、 いわゆるボイコット型の部下ハラです。また、集団で一斉に有給休暇を申請してくるなど、労働者の権利を逆手にとった事例も後を絶ちません。

部下からのハラスメントの具体的な事例

ここからは、筆者が社労士として様々な企業の労務相談に携わっている中で、印象的だった部下ハラの事例をご紹介いたします。

とある中堅企業での事例です。Aさん(50代前半・男性)は、新卒でこの企業に入社して以来、営業部の要として活躍してきた人物でした。Aさんは、個人としても成績が優秀な上、後輩の育成にも積極的だったことを買われ、本社の人事部で人材育成を行なう仕事を任されました。

「これまで営業部門で高評価を受け続けていましたし、自信もありました」と、当時を振り返り、Aさんは語ります。しかし、その自信に暗雲が立ち込め始めたのは、配属から3か月ほど経った頃でした。

Aさんの部下Mさん(40代前半・女性)が、Aさんに反抗的な言動をするようになりました。目に余るということで、Mさんを呼び出し、注意をするも、一向に改善する気配はありません。頭を抱えつつも、他の部下とはうまくいっていたので、なんとか部署の業務をこなしていました。

そんなある日、給湯室で、普段から仲良くしていた若手の部下たちと、世間話をしていた時のことです。Aさんは、ぽろっと「いやぁ、Mさんには参ったよ」などと軽口をたたいてしまったと言います。耳を傾けてくれる部下たちに気を許したAさんは、ついついMさんの悪口に花を咲かせてしまいました。これが大きな綻びになっていたことに気付いたのは、次の日のことでした。

「朝出社した時に、ぴりっとした雰囲気を感じました」と語る、Aさん。

すぐにその空気の正体はわかりました。先日の悪口が、部署全体に伝わっていたのです。激怒したMさんからの嫌がらせは、日に日にエスカレートしていきました。仲良くしていた部下たちも、手のひらを返したように、よそよそしくなりました。ひどい時には、Aさんが部下に何か話しかけても、Mさんの顔色を窺い返事をしてくれないことも……。

どうやらMさんが集団で無視するように、後輩たちをけしかけているようでした。Mさんが、人事部での業務経験が長く、影響力を持っていたことも背景にあったようです。そんな状況の中、次第にAさんは夜眠れなくなり、精神的な不調により休職するまでに至りました。

その後、社内で関係者にヒアリングが行われ、MさんがAさんに反抗的な態度を取り始めた原因が判明。なんと、最初のきっかけは、「ぞんざいな話し方」でした。

AさんがMさんに対して「〇〇の仕事は終わってるのか?」とか「〇〇をやっといてくれ」などというように、上から目線で敬意を感じられない話し方をしたことで、かちんときたのが発端だったようです。Mさんとしては「たとえ年下だとしても、丁寧な言葉遣いで接するべき」と不満を感じたとか。その後も、業務について「そんなやり方はだめだ」などと、一方的にダメ出しを受け不満が募っていたところに、給湯室の一件で火に油が注がれたということでした。

Mさんは、「上から目線と、傾聴力の無さに辟易していた。私の方が人事経験は長いのに」と語っていたようです。一方、Aさんは、「悪口は反省しているが、その他の言動は上司として当然のことだった」と言います。

その後、幸いAさんは無事回復を遂げ、復職と同時に他部署へ異動。Mさんは集団での嫌がらせによって、会社の業務に支障をきたしたとし、戒告処分となりました。

部下ハラを避けるために知っておきたいこと

実は、部下が上司へハラスメントをするのは、上司が無意識にしている言動がきっかけとなるケースが少なくありません。このような部下からのハラスメントを避けるために、知っておきたい点が二つあります。

一つ目は、敬意あるコミュニケーションをすることです。一方的なダメ出しやお説教などは、自分もされてきたので、「当たり前」という感覚をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ですが、この感覚こそ、問題の原因になっているケースが多いのです。

ほんの少しの意識で、トラブルは避けやすくなります。例えば、いきなりダメ出しをするのではなく、まず部下の意見を傾聴するようにすると、印象はかなり変わってくるでしょう。実際に、復職したAさんは、「敬語と傾聴」を意識するようになってから、部下との関係が円滑になったと言います。

二つ目に知っておきたいのは、相談する相手を間違えないことです。ついつい信頼している部下や同僚に、他の部下の愚痴を言いたくなるかもしれません。ですが、これは何の解決にもならないばかりか、大きなトラブルに発展してしまうこともあり得ます。また、最悪の場合、自分がハラスメントの加害者として不利な立場になってしまうことも、十分考えられるでしょう。

もし、部下からの嫌がらせや、指示に従ってくれないなどで悩んでいる時は、個人的な愚痴ではなく、管理職会議や、役員への相談など、「会社全体に関わる問題」として公式に相談することをお勧めします。

最後に

近年、様々なハラスメントが話題になっています。何でもハラスメントだと騒ぎ立てる風潮は、いかがなものかという疑問の声も聞こえてきそうですが、これも時代の流れなのでしょう。ひと昔前であれば当然だった言動も、ともすれば問題になってしまう時代です。

本記事では、ハラスメントの中でも、特に部下によるハラスメントの事例や、部下ハラを避けるための対策などを解説しました。部下との関係に悩んでいるという方は、ぜひ参考にしてみてください。

●執筆/塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩(つかはら・みさ)

社会保険労務士。
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。
ホームページ:https://tsukaharamisa.com

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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