文/鈴木拓也

最近、「アサーティブ・コミュニケーション」という言葉をよく耳にするようになった。

縮めて「アサーティブ」。「表明する」「主張する」といった意味があり、このコミュニケーションの考え方は、基本的人権の意識が高まった1950年代のアメリカで生まれた。

今はこれを一言で、「すがすがしく自己主張する技術」と説明するのは、(株)グローバリンク代表取締役の大串亜由美さんだ。大串さんは、著書『[新版]アサーティブ 「嫌われない自己主張」の技術』(PHP研究所)のなかで、次のように続ける。

言いにくいことも、必要以上に罪悪感を持つことなく声に出せて、ちゃんと伝わる。「NO」と言っても、すがすがしく握手できる。だから明日も、気持ちよく一緒に仕事ができる。
伝えたい相手にしっかり届く“自己主張”の技術―それが本書のテーマである〈アサーティブ・コミュニケーション〉です。(本書18pより)

特に職場では、従来のコミュニケーション・スタイルは、ときとして敵対的になりやすい側面があった。それが、パワハラという言葉が出てきて、生産性の観点からも、昭和的な上下関係のやりとりがよしとされない風潮が高まり、アサーティブが注目されてきている。

尊重すべきところは、本気で尊重する

例えば、最近はふつうに見られる、年下の上司や年上の部下。「やりにくい」と感じる人は多いかもしれない。

大串さんは、そう感じるのは、自分に自信がなく、相手のこともちゃんと尊重できないからではないかとする。自信はさておき、大切にしたいのは、「尊重すべきところは、本気で尊重しましょう」の姿勢。褒めるべき点は、声に出して褒める。一方で、違うと思うところも、事実と理由を添えてきちんと伝える。これには、年齢の上下は関係ない。

また、一番困るパターンとして大串さんが指摘するのが、「うるさいこと言わないし、いい人なんだけど、上司としてはちょっとね」と思われている場合。表面的ななごやかさに徹する上司は、部下から諦められているかもしれず、これではいけない。

この状況を脱するコツは「AID」だという。Aは「Action(行動)」、Iは「Impact(影響)」、Dは「Development(成長)」。本書には次の一例がある。

「今期分の決算書、2日遅れたよね(行動)。経理への提出が遅れて、最終チェックに十分な時間がとれなかったと言われました(影響)。忙しいと思うけど、仕事の進め方や優先順位、もう一度確認してみない?(成長)」
部下には見えないところでの影響。より大きな視点での仕事力アップの方法や発想。一緒に仕事をしている上司にしか渡せない「WIN」を、相手目線で、具体的に伝えてあげることが大切です。(本書63pより)

ポイントは「部下の成長を本気で信じてあげること」。その気持ちがあれば、厳しいことも言えるし、部下も「ハラスメントだ」などと短絡的な反応はしないはずだ。

頼みたいことがあるならストレートに頼む

職場の人間関係でよくある問題に、仕事を頼めない、あるいは仕事を断れないというものがある。

この場合も、アサーティブの出番となる。

大串さんは、頼みたい仕事があるのなら、ストレートに頼むことが肝心だと説く。しかしそれは、無理強いであってはいけないとも。相手に事情あって、「NO」と言ってくる権利も、きちんと尊重してあげることが大切だという。

さらに頼み事では、「何を」「いつまでに」「なぜ」頼みたいのかを、相手に明確に伝えることが必要だと説く。そうすれば、できるかどうか相手が判断しやすくなるからだ。仮に「NO」の返答であっても、「検討してくれて、ありがとう」のひと言を必ず伝え、次につなげる。

頼むのとは逆に、自分からしたいことを「したい」と言えない問題もよくある。これについて、大串さんはこうアドバイスする。

希望は、相談ベースで伝えましょう。そして、相手が「YES」を渡しやすいよう、相談する前に自分なりの準備・努力をすることも大切です。
例えば、2週間の休暇を取りたい時。
「休暇中に仕事が滞らないよう、〇〇と〇〇は終わらせておきます。留守中もお客様に対応できるよう、後輩に引き継ぎをしていきます。取らせていただけますか?」(本書103p~104pより)

こうした単発の希望とは別に、「将来こんな仕事がしたい」のような少し先のゴールについては、日頃から周囲にアピールしておく。そして、実現へ向けた努力を重ねていく。それが伴わないと、「希望ではなく、単なるわがまま」だと大串さんは釘を刺す。

*  *  *

「アサーティブ」という横文字から、なにか難しい話かと思われるかもしれないが、このように平易で得るものは大きい。何冊かの関連図書が出ているなか、入門として本書をおすすめしたい。

【今日の人間力を高める1冊】
『[新版]アサーティブ 「嫌われない自己主張」の技術』

大串亜由美著
PHP研究所

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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