シスターフッド……女性同士の連帯が叫ばれる昨今、実際の友情をテーマにライター・沢木文が女性達をインタビュー。そこからわかったリアルを紹介する連載。今回のテーマは「借金」だ。
新型コロナウイルスが五類に移行したことにより、日常生活が戻ったと感じている人も多いが、その爪痕は深い。厚生労働省は、2023年4月に「コロナ特例貸付」の返済率が18.6%にとどまっていると発表。これは、国がコロナの影響で収入が減った世帯に、無利子で資金を貸し出す特例貸付制度だ。返済期限は2023年1月だったが、8割以上が返していない。また、返済の免除や猶予などの手続きがされないままという割合は、44%にのぼり、その総額は約1.4兆円以上だという。東京都に住む真理子さん(62歳・パート)は、「借金する人は返さない。香織(62歳)もそう」と語る。
【これまでの経緯は前編で】
港区の大地主と結婚したが……
真理子さんが32歳で授かり結婚をしたのは、大学の同級生の男性だ。彼は有名な商社に勤務しており、離婚歴があった。
「それを真理子に伝えたら、“商社マンと結婚!? 会社員と結婚なんて、一生貧乏生活じゃない。私には無理”と言われてしまったんです。そのときはムッとしましたが、確かにそうだなと。香織のボーイフレンドたちは、皆お金持ちで会社を経営していましたから」
真理子さんが知るだけでも、不動産関連、貿易関連、工業用ダイヤモンドのブローカーなど多種多様だった。
「香織は20代のときにテレビにも出ていましたから、タレントという肩書はある種の男性にとって魅力的なんだと思います。私は大学卒業後、銀行に勤務しましたが、一念発起して公務員になりました。女性の就業支援や、女性議員を増やす活動などをしており、その背景には香織の存在があったと思います」
美貌と色っぽさで、有力な男性に取り入れば、社会を乗り切れる……それは女性の地位が低いからではないかと思ったからだ。
「色仕掛けでどうにかしても、どうにもならない。香織は小学校のときにそういう“甘い汁”を知ってしまった。私の傲慢な思い込みかもしれませんが、やはり努力が大切だと思うんです。まあ、“美貌を磨く努力をしている”と言われればそれまでですが」
真理子さんは結婚してからも実家の近くに住み、香織さんとの交流は続いたという。
「娘にとても高価なテディベアをくれたり、洋服を買ってくれたりしていました。そのうちに、“私も結婚する”と、40歳のときに62歳の港区の大地主と結婚。白金台に引っ越してしまってから、15年間は連絡を取っていないんです」
その間、真理子さんは仕事と育児に奮闘した。夫の勤務先は一流とはいえ、前の妻との間にもうけた2人の息子の養育費も払っている。生活は厳しかった。
「同じ世代同士、結婚して一緒に苦労するのも悪くないなと思っていました。32歳で結婚すると、いわゆる“カエル化現象”もないですしね(笑)」
カエル化現象とは、片思いしている間は相手を好きだが、両想いになったとたんに嫌いになるという心理を指している。
「香織はこのカエル化現象が激しかった。相手を振り向かせるまでは、“あなたが、好き!”と猛プッシュするんです。そして手のひらを返すから、男はみんな夢中になってしまう」
香織さんから15年ぶりに連絡があったのは、コロナの前だった。「困っているから、20万円貸してほしい」と連絡があったという。
「香織は41歳で男の子を出産していたんです。その子の学費がないから貸してほしいと。その頃はウチの娘の大学の学費も終わっており、20万円くらいなら何とかなると、貸しました。香織の実家も稼業が傾いて大変なのは親から聞いていましたし。でも20万円は大金です。当然、借用書も作りましたよ」
香織さんの夫は事業が失敗し、病床にいると教えてくれた。
「半年後に夫の保険金が入るから、それまでのつなぎの資金だと。香織はお金にはきれいな方だったので、信じてしまったんです。そのとき、相変わらずの美貌で、高級宝飾店のジュエリーをつけていました。だいぶ太っていましたが、あの明るさは健在。息子の写真を見せてもらうと、とても賢そうでした」
お互いに家庭を持ち、流れていた時間を埋めるように、頻繁に会うようになったという。
「公務員だったし、気がねなく話せる友達って少ないんです。若い頃はわからなかったことも、答え合わせをするかのように明らかになっていきました。香織のお父さんは本当の父親ではなく、さまざまな虐待を受けていたことまで話してくれたのです」
だからこその明るさと、愛を求める気持ちがあったのかもしれない。
【ちょこちょこ借金は積み重なって200万円に……次のページに続きます】