ずっと負けていると思っていた
真理子さんは、香織さんと話すうちに、「私は香織に勝った」と思うようになっていたという。
「正直、可愛い子の方がいい思いをするし、愛されます。私は地味ですから、男性からすれ違いざまに“ブス”と言われたこともありましたし、香織と一緒に出掛けると、“引き立て役”と言われたこともありました。そういうことが積もり積もっていましたから、55歳になった香織が“お金を貸してほしい”と言ってきたときに“勝った”と思ったんです」
それからも、1万円、2万円とお金を無心され、「それくらいなら」と払ってしまった。
「私が結婚するときに、“商社マンと結婚なんて、一生貧乏生活”と言われたことが根っこに残っていたんです。“1~2万どころか、20万円もたいしたことないわよ”と金を貸せる優越感というか……そういうこともあって、この5年間で、気が付けば200万円も貸していたんです」
定年を迎えたときに、貯金が激減していることに気付き、「これではまずい」と思ったそう。
「働いている間は、お金が入って来るから見て見ぬふりをしていましたが、定年になって収入が途絶えて“これはまずい”と」
香織さんに借金の返済を迫ると、“もう少し待って”と言われ、やがて音信不通になってしまったという。
「香織の実家はとうに処分されているし、母に聞くと香織の両親は施設に入っていると。母に200万円が還ってこないことを伝えると、“香織ちゃんは年取ってできた子だから甘やかしたんだろうね”という。香織は父親と血がつながっていないと言っていましたがそうではなかったんです」
加えて、息子がいるのもウソ。ついでに結婚5年くらいで離婚し、若い男性と同棲していることを、真理子さんの母は語った。
「私のことを見くびり抜いていたんです。私の幼稚な優越感に取り入ったんでしょうね」
幼なじみに騙されたショック、定年後の自信喪失もあり、しばらくうつ状態に。適応障害の診断を受け、通院もしている。
「見かねた夫が、“そういうこともあるよ”と慰めてくれて、旅行に連れ出してくれました。それでだいぶん吹っ切れたかな。夫婦っていいものです。それにつけても、無利子でお金を貸してほしいという人は、還さないと思いました」
友人間の借金は、利子がないことがほとんどだ。情の貸し借りは無返済になりやすい。コロナ禍以降、経済格差は拡大している。「貸すならあげたつもりになれ」と言うが、それによりどれだけの人が苦しむか、そしてその痛みが次世代に連鎖するか……借り逃げした人はわからないのかもしれない。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。