個人の方で新しく事業をスタートする方は、これからはご自身で収入や経費を計算して、1年に1度、確定申告をすることになります。その際、「青色申告」で確定申告をしましょうという事を、聞いたことがあるかもしれません。青色申告以外の申告を「白色申告」というのですが、青色申告を選択する理由は、税金の計算上様々なメリットがあるからです。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、青色申告のメリット・デメリットのほか、白色申告との違いについてもご説明いたします。
目次
青色申告と白色申告の違いは?
青色申告のメリット・デメリットとは?
ラリーマンでも青色申告はできる?
青色申告した方がいい人とは?
まとめ
青色申告と白色申告の違いは?
青色申告とは、事業所得や不動産所得が発生する方が、自らが税務署に申請書を提出することで、様々な税制上の恩恵を得ることができる制度で、これを青色申告制度といいます。一方で、白色申告は青色申告以外の方法という区分がされ、青色申告を選択する申請書を提出しなければ、全て白色申告の形式となります。
青色申告は、その適用を受けようとする年の3月15日までに、申請書を管轄の税務署に提出することで選択が可能です。その年の1月16日以後に、新たに事業を開始したり不動産の貸付けをした場合には、その事業開始の日から2月以内に提出が必要になります。
青色申告のメリット・デメリットとは?
青色申告のメリットは、なんと言っても、税金計算上様々な恩恵を受けることができ、結果的に節税の効果がある事でしょう。まずはメリットと言える税制上の優遇規定をご紹介します。
・青色申告特別控除
・青色事業専従者給与の必要経費算入
・純損失の繰越と繰戻し
・少額減価償却資産の特例
・家事関連費の必要経費算入
青色申告特別控除
不動産所得や事業所得などの事業を営んでいて、これらの所得に係る取引を複式簿記で記帳した上で、その記帳に基づいて貸借対照表と損益計算書を作成します。確定申告書を法定申告期限である翌年3月15日までに提出している場合には、これらの所得から55万円を控除することが可能です。更にこの55万円の控除は、下記要件をクリアすると控除額が65万円まで増加します。
・その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存を行なっている。
・その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、確定申告書の提出期限までにe-Taxを使用して行っている。
複式簿記で帳簿を作成することは、簿記の知識や経験が必要で、それなりに時間がかかります。その恩恵として用意されているのが最大65万円の控除です。複式簿記による帳簿が作成できないなど、それ以外の青色申告者については、不動産所得、事業所得から10万円を控除することになります。
青色事業専従者給与の必要経費算入
青色申告者と生計を一にしている配偶者や、年齢が15歳以上のその他の親族に支払った給与で、その青色申告者の事業に専ら従事していると認められる場合には、その給与を必要経費に計上することが可能です。
適用を受けるためには、事前に青色事業専従者給与に関する届出書を、税務署に提出して、かつ、届出書に記載した金額の範囲内で専従者の労務の対価として適正な金額であれば、必要経費として認められます。
純損失の繰越と繰戻し
事業所得などに損失が発生した場合で、他の所得との通算(損益通算)の規定を適用してもなお、控除しきれない部分の金額が生じたときには、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越し、翌年以降に発生した所得と相殺することができます。
また、前年も青色申告をしている場合は、純損失の繰越に代えて、その損失額を生じた年の前年に繰り戻して、前年分の所得税の還付を受けることも可能です。
少額減価償却資産の特例
通常、1品あたりの取得金額が10万円以上の固定資産を購入すると、減価償却という方法により、複数年にまたがって経費に計上されます。青色申告の場合には、取得価額が30万円未満である減価償却資産は、購入年に一括で経費に計上が可能です。減価償却で経費にすることに比べて、大きく経費化できます。ただし、年間の購入金額の合計が300万円までという制限があります。
家事関連費の必要経費算入
家賃や携帯電話、インターネット料金など、仕事とプライベートの線引きが必要な経費のことを家事関連費と呼びます。この家事関連費について、青色申告者であれば、帳簿の作成等を条件に、業務で使用している部分を明確にできれば、たとえ少額な割合でも経費にすることが可能です。
一方、白色申告者は、原則的には業務で50%超を使用している実績があり、かつ必要部分を明確にできる場合に限り、経費にすることが可能になります。つまり白色申告の場合だと、概ね仕事用で使っているものでなければ、これらの経費は計上できません。
逆にデメリットについては、青色申告特別控除でも触れたように、簿記の知識を基にした複式簿記による帳簿の作成や、貸借対照表、損益計算書などの資料の作成も求められます。また、そもそもメリットの存在そのものを知らないと、せっかくの青色申告の恩恵も最大限活用することができないので、幅広い知識も必要になるでしょう。
もし、時間的な制約や、知識や経験が不安でご本人で作成することが難しい場合には、税理士などに作成をお願いすることも可能です。しかし、その場合には、税理士への報酬などが追加でかかってしまうので、そのコストがデメリットとも言えます。
サラリーマンでも青色申告はできる?
青色申告は、上述したように事業所得や不動産所得が発生した場合に、恩恵を受けることができるもので、お勤めの方で年末調整だけで税金計算が完了している方は、青色申告の必要がありません。
また、本業以外にフリーランスなどで副業をして収入を得ている方も、帳簿の作成や保管をしていない場合には、副業収入が年間300万円以下であると、事業所得ではなく雑所得として認識をすることになります。そのため、青色申告の定義の1つである事業所得が発生しているに該当しないので、適用を受けることができません。
青色申告した方がいい人とは?
青色申告の恩恵は、事業所得や不動産所得が発生している方が受けることができます。ある程度の規模で収入や経費が発生している場合には、必ず青色申告により申告をしたほうがよいでしょう。
まとめ
青色申告をすることで様々なメリットがある事はおわかりいただけたかと思います。その代わり、メリットを受けるためには帳簿の作成や保管が必要で、ある程度の手間がかかるのも事実です。また、優遇されている内容を把握していないと、せっかくのメリットも最大限生かせません。
ご自身で全てを対応することが難しければ、税務のプロの税理士に依頼することも視野に入れて、損をしない申告手続きをしていただきたいと思います。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)