結婚は10年目に突入するも、ただ離婚していないだけ
7回目の妊活が失敗に終わった直後、些細なことで初めての夫婦ゲンカをしてしまう。普段温厚な夫の怒りの意思表示は無視。桃子さんから謝罪の言葉が出てくるまで部屋から出てこなくなった。
「ケンカの内容は買い物の内容です。私が仕事終わりに夫に買い物をお願いしたのですが、お願いしたものの他に『安かったから』と色々なものを買ってくるんです。まだあるものも買ってくるから『追加で買ってくるなら冷蔵庫のものをちゃんと確認してね』と言ってしまったことで夫がキレました。
追加で買ったものをゴミ箱に捨てて、自分の部屋に籠ってしまいました。そこからどんなに話しかけても無視です。『ごめんなさい』と言うとやっと口を聞いてくれて、どこが悪かったのかということをネチネチと言われて、許してもらいました」
そこから言い方を気をつけるなどしていたが、夫は自分の意見が通らないときなどにも部屋に引きこもるように。その度に桃子さんは謝り続けたという。
しかし、決定的なことが起こり、桃子さんは自分から歩み寄ることを止めてしまう。
「夫が不機嫌になったのが、妊活のタイミングで。謝った後も機嫌が直るまで時間が必要だから待ってから、いつものように私のほうから誘いました。そしたら、『子作りしたいから謝ってきたんだ』と冷笑したんです。この人の子どもをここまでして本当に欲しいの? と自分の中で疑問が浮かび上がりました……」
その後に別の理由で夫がまた無視をしてきたときには、すでに桃子さんに歩み寄るという気持ちは残っていなかった。家の中で冷戦状態が続き、夫は話しかけてこないものの部屋からは自然に出てくるようになったというが、口はきかないまま。その空間に嫌気がさしたのか、先に逃げ出したのは夫のほうだった。
「今別の部屋を借りて、そこで生活しているみたいです。義母から聞きました。
そこから7年間、私たちは別々にお互いの情報を一切共有しないまま、夫婦だけを続けています」
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少し前に卒婚(離婚せずに同居共同生活を解消すること)が話題となっていたが、桃子さん夫婦の場合はそれとは少し異なる。卒婚の定義は難しいが、夫婦がともに卒婚という生活スタイルを納得している必要があるからだ。
桃子さん夫婦はお互いの生活スタイルへの納得はおろか、離婚を望んでいるのかどうかさえわからないという。
結婚と同様に離婚にもお互いの同意が必要になる。お互いの意志の確認を放棄した夫婦は、どちらかに離婚したい理由ができるまで、ずっとこのままな可能性は高い。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。