一人になってみると、孤独が身に染みた
妻が求めていたのは、離婚ではなく別居。自宅マンションの近くに、一人暮らし用のマンションを購入していたという。
「僕も籍を抜くのは抵抗があったし、孤独が一層強くなる。妻の60歳の誕生日に“これが卒婚式”と、いいワインをあけた。コロナだったから、外食ができないからね。乾杯もそこそこに、バタバタと出て行った。住むところが変わると、心がガッと離れてしまう。船のロープが舫いから解かれる感じがした。“ああ、終わったんだ”って」
妻がいなくなっても料理は続けようと思ったが、一切しなくなった。
「食べてくれる人がいるから、張り合いがあってやっていた。妻をそれに付き合わせてしまったのかな。友達を呼ぼうにも、コロナだからうかつなことはできない。仕事もリモートになっているし、5~7月は記憶がないくらい、孤独で苦しかった。一人になると孤独が身に染みた」
卒婚から1か月、妻からは週に1回LINEが来ていたが、すぐに来なくなった。
「金もあるし、好きなことをすればいいのに、コロナで何もできない。それ以前に、一人では何をしても楽しくない。一度、いわゆる“プロの女性”を呼んだことがあったんだけれど、全然、ダメだった。少しの欲望も生まれないみじめな自分。それならば、何か話そうと思ったけれど、甲高い声で話す、娘よりも年齢が下の女性と話すことは何もないよね。趣味のワイン、料理、音楽は妻がいてこそ成立していた。自分は定年してから妻にまとわりつく“濡れ落ち葉”にはならないと思っていたけれど、定年の前からそうだった。そりゃ、妻も嫌気がさすよね。そんなことを考えていると、孤独の底に落とされるというか、何のために生きてきたんだろうと、闇に引き込まれる感じがした」
【事態が好転したのは、夏休みに故郷へ帰り“初めての人”を探してから……その2に続きます】