取材・文/沢木文
結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻の秘密を知り、“それまでの”妻との別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。
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妻から“卒婚”を言い渡された
お話を伺ったのは、隆英さん(仮名・60歳・会社員)。隆英さんの妻は、結婚32年目の昨年、「卒婚したい」と言ってきた。
「ウチはずっと共働きで、お互いに自由にやってきた。2人の娘も嫁に行って、これから夫婦2人で生きると思っていたら、“卒婚”だって」
隆英さんの夫婦関係はずっと円満だ。隆英さんはシングルマザー家庭に育ち、家事が一通りできる。娘たちの保育園の送り迎えもしてきた。毎朝、朝食を作り、週末にはカレーを仕込む。美味しいものを食べたいときは、自ら腕をふるい、家族や友人にふるまっている。
「そういうことが、他人から見れば“いい旦那さんね”ってことになるのかもしれないけれど、妻にとっては嫌だったみたいなんだよね。ホントは友達とテキトーに飲みに行きたいのに、家で僕がトンカツを揚げていたら帰ってこなくちゃいけないじゃない。クリスマスに有名パティシエのケーキが食べたいのに、僕がシュトーレンを焼いていたら、そっちを食べなくちゃいけないじゃない。そういうことの積み重ねだったみたい」
妻は総合商社に勤務している同じ年の女性だ。有名な女子大学を卒業し、キャリアを積み重ねてきており社交的な性格で、趣味も友人も多い。
「頭もよくて美人で、自慢の妻なんだけれど、そういうことを言われるのも嫌だったみたいなんだよね」
寝耳に水だった“卒婚”話。しかし、妻はこの10年間、ずっと考えていた。「あなたは楽しくていい人だと思うし、世間的にはデキた夫だと思う。でも、私、他人に合わせて生きるのをやめたいのよ」と言われた。
「起きる時間、寝る時間、食事の時間と内容……妻は24時間、自由になりたいといった。樹木希林さんの名言を持ち出して、“死ぬときくらいは好きにさせてよ”と言われたんだよね」
【「離婚をせずに、別居して、お互いに自由になろう」と妻から提案された。次ページに続きます】