取材・文/沢木文
結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻の秘密を知り、“それまでの”妻との別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。
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バブル前夜に学生時代を過ごした
お話を伺ったのは、正尚さん(仮名・60歳・会社経営)。結婚25年、3歳年下の妻が、コロナ禍中に家を出ていった。
「その翌日に、離婚届けを持った弁護士が俺の会社に来た。追い返したけれどね。妻とは連絡が付かないし、2人の娘たちも、すっとぼけている。一体何があったのか、さっぱりわからない」
正尚さんには、全く心当たりがないという。風采がよく、裕福で清潔感がある正尚さんと、専業主婦で良妻賢母を絵にかいたような妻……そんな夫婦のなれそめからお話を伺った。
「東京の理科系の大学に在学中に、当時短大生だった妻と出会った。あの頃の大学生は、よく遊んでいたよね。僕の家は下町で工場をやっていて羽振りがよかったから、国産車だけれどクルマを買ってもらって、スキーに行って……まあモテたよ。妻はかなり品がいい短大に通っていて、お父さんが広告代理店に勤務していた。あのころはバブル前夜だったから、うわついていたよね」
妻の方が、正尚さんのことを好きになったという。
「いつも視界の隅っこにいる、細くてかわいい子、というのが、妻の印象。僕の母親が下町育ちで荒っぽくて威勢がよくて、とにかくうるさかった。オヤジ以上に会社を切りまわしていて、僕が高校生……母が43歳のときに一升酒飲んでデーンと倒れてそれっきり死んでしまった。だから、控えめで、物静かな人に惹かれてしまう。いつも僕を見てくれている、可愛い女の子と付き合ったらきっと幸せなんだろうと思いながらも、モテたこともあったし、一人に絞り切れなかった。男ってそういうモノじゃない?」
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