ネット上の行動を確認される

珠美さんは弥生さんと出会ってから、スマホに替えた。それは弥生さんとLINEをするためであり、俳優のインスタグラム(写真SNS・以下インスタ)を見るためだった。

弥生さんから「公式のインスタは事務所のスタッフが書いているけれど、ホントにプライベートのインスタはコレ。鍵がかかっている(非公開)けれど、特別に彼に承認させるね」と言い、フォローの申請をすると認められた。そこには、俳優の愛猫との日々、料理、撮影の合間に見た風景などが紹介されていた。

「フォロワーを見ると150人程度。そこには俳優の妹、母、個人的に親しくしているデザイナー、作家、ミュージシャンなどがいました。“ポッと出”のファンである私がその一人になったことが誇らしかったです。でも、それを見てわかったのは、私は俳優のプライベートに興味がないということ。私が見たいのは、映画やドラマで光り輝いているところなんです。庭のトマトが実ったとか、猫が陽だまりで寝ているとか、別荘の壁にキツツキが穴をあけたとか、そういうことはどうでもいい。やがてあまり見なくなると、弥生さんから“珠美さん、見たの? イイネをつけてないわよ”とLINEが来るようになったんです」

おそらく、弥生さんには、相手を支配しているという意識は皆無だと推測する。

「むしろ、新参ファンの私にいいことをしているという好意しかないんです。ここまでくると、悪意がないからやっかい、ともいえます。インスタもLINEもめんどくさくて……。俳優のプライベートのインスタを見るうちに、“なんだ、この人も普通のオジサンじゃないか”と思うようになって、興ざめしてきたんです」

加えて、「私も金づるのひとつだな」と気付くことも多くなった。弥生さんから、「売れ残ったみたいだから買ってよ」と、俳優のクリアファイル、Tシャツ、鏡、マスクケースなどの購入をすすめられた。

「名前と写真がプリントされているだけなのに、クリアファイルは700円。Tシャツは5000円ですからね。“そんな余裕はない”と返事をすると、“ファンなんだから買いなさいよ。プライベートインスタの入場料だと思えば安いでしょ”と言うんです。見たくはないものを見せられて、そのうえ不要なグッズを買わされるって、ねえ」

グッズは「私は絶対に買わないわ」と返信し、プライベートインスタからも退出。当然、弥生さんからは「せっかく誘ってあげたのに、どうしてよ」と電話がかかってくる。

「作品だけが好き、と伝えましたよ。すると、“ふ~ん”と言われて、再び“イベント、来ない?”と誘いが来るんです。地方ロケのエキストラにも誘われました。泊っているホテルも教えてくれて、”遊びに来たら私の部屋に泊めてあげる”とまで言われたんです。そんな、弥生さんの情熱と魅力も好きですし、私に心を開いてくれているのもうれしい。同じ人を好きになるくらいですから、気が合うんです。でも……」

「でも……」の先にある、珠美さんの本音は「面倒な人だから絶縁したいが、大人になって友達になれる人は少ないので、付き合ってはいたい」だろう。弥生さんとのコミュニケーションは、1回やり取りするだけでも、そのストレスは大きい。そのためなのか、弥生さんの周辺には、ファン仲間はいないという。

ピュアな人ほど面倒だ。その付き合いを、それを人生のスパイスと捉えるか、ムダと捉えるかは人それぞれだろう。しかし、そのような心の負荷は、人生の質を下げてしまう可能性がある。珠美さんも弥生さんと同じくらい、まっすぐな性格だ。似た者同士ですれ違う友情が、今後の人生にどんな弊害をもたらすか、それは誰にもわからない。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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