取材・文/沢木文
「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。
シニアの間で、「推し活」が話題だ。これは、俳優、スポーツ選手、歌手などを“推す(応援する)”活動のことを指す。
ニュースでも「富山県の高齢者施設では施設ぐるみで地元のサッカーチームの推し活を推奨したところ、利用者の気持ちが若返り、活動範囲が広がり要介護3から1になった」とか「シニア女性向け女性誌『ハルメク』の調査では、推し活に使う1年間の平均額は9万352円」などと報じられている。
推しを通じて交友関係が広がり、活動的になる推し活はいいことづくめのように語られているが、人が集まればトラブルも発生する。
「楽しいはずの推し活で、嫌な思いをすることもあります」というのは、珠美さん(65歳)だ。いったい、何があったのだろうか。
最愛の夫が亡くなり、10キロ痩せた
珠美さんは4年前に夫(享年65歳)をがんで失い、生きる気力がなくなった時期があった。
「子供がいないから、お互いがそれぞれの子供みたいで、主人と私はいたわり合って生きていたんですよ。ケンカなんてしたこともなかったですね。60歳で不動産関連会社の定年を迎え、すぐに関連企業に再就職して、しばらくすると“背中が痛い”と言いだした。私もパートが忙しかったし、主人も病院に行きたがらないのでほっておいたんです。すると、あるときゴルフ中に倒れたんです。そしたらすい臓がんと診断されました。進行が激しく手遅れと言われました」
発覚から亡くなるまで8か月だった。
「最初、余命2~3か月と言われたので、主人は私が困らないように即座に財産の整理をスタート。それなりに持っていたので、税理士さんとは相談していたみたいです。株や投資信託を現金化して、名義の書き換えなどもして……あれって、すごい面倒なんですね。私と主人の甥っ子や姪っ子を呼び寄せて、小遣いをやり、“珠美に会いに来てほしい”などと言っていました」
財産の整理をしつつ、それまで忙しくて先延ばしにしていたハワイやヨーロッパなどの海外旅行も行った。
「主人と一緒にいる時間を確保するために、私はパートをやめました。主人も旅しているときは元気でしたね。お医者さまには”持ってあと3か月”と言われましたが、結局、8か月も生きてくれて、自分の葬式の手配までして逝きました。最期は自宅だったんですけれど、“これまで一緒にいてくれてありがとう”と言われました。あのときは本当につらかった。私も主人についていきたいと思い、泣き暮らしていました。気がまぎれることでもあればよかったんですけれど、主人は亡くなる前に全部面倒事を片づけて行ったでしょ。雑用がないから泣くしかないんです」
同居する家族がいれば、「もう泣くのはやめて立ち直ろうよ」と言われるだろうが、そういう人もいない。
「パートもやめてしまいましたからね。仕事の人間関係って、毎日会うから成立する。個人的に連絡が取れる友達ってほとんどいないんですよ。そして、主人が亡くなってから2か月、気が付けば体重は10キロ落ち、髪は白髪だらけになっていた。そんなとき、たまたまテレビをつけて、やっていたテレビドラマに、あの人が映っていたんです」
【乾いた心に輝きとオーラが心にしみてくる……次のページに続きます】