娘よりも自分の若さと美しさが大切
玲子さんの娘2人はすくすく成長し、上の娘は大学を卒業してからIT関連会社に就職。下の娘はアート系の専門学校を出てから、大手企業のデザイン室に勤務している。
「聡子の娘はウチみたいに順調には行かなかったようで、高校は出たものの、就職せずにぶらぶらしているみたい。やはり母親が娘と向き合わず、男にばかり意識が行っているからだと思うんです。子育てって質量保存の法則というか、親がその子にしたようにしかできないところがあるんですよ。聡子はほったらかされて育ったから、娘もほったらかした。たぶん、どう育てればいいのかわからないんだと思うんです」
玲子さんは持ち前の正義感から、聡子さんに「娘と向き合いな。もっと愛してあげな」と忠告するも、「そうねぇ。でもあの子が嫌がるのよ」と言い続けた。
「その結果、リストカットしたり、引きこもりになったりしているんです。亡くなったご主人は実の子供でもない聡子の娘のために、まとまったお金を残してくれていたんですが、それを聡子が使っていることは間違いがないんです」
使い道は、美容整形ではないかと、玲子さんは推測する。
「聡子はご主人が病床についた55歳くらいから、どんどん顔が変わっているんです。切れ長の美しい目が、二重瞼になり、鼻がシュッと高くなった。歯並びが変わって白くなり、もともときれいだったのに、段違いの美貌を手に入れるようになった」
そして、美容整形を玲子さんにもすすめてきた。「玲子の顔がおばあちゃんみたいよ」と言うので、しわも私の魅力のひとつと断ったら、「そうではないのよ。私が言っているのは輪郭。年を取ると、こめかみの肉が削げ落ちてくる。そこにヒアルロン酸を注入すると、若い輪郭になるから」と言った。
「聞けば50万円だって。美容鍼とか、ハイフ(光線の照射)とか、そんな話ばかりするようになったんです。それまで、聡子が男を選んでいた。でも、55歳のバアサンは男から選ばれなくてはいけない。そのために聡子は我を失っていた。娘より美容整形を選ぶ聡子に腹が立っていたのではなく、誇りを失った彼女を見たくなくて絶交したのかもしれません」
よく「昔の60歳と今の60歳は違う」と言う。栄養状況の向上や、美容医療の技術進歩がそれを実現させている。欲望と誘惑まみれの現代社会、多くのことは金を払えば手に入れられる。多くのことに幻惑されないためにも、心の老成が必要なのではないか。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。