台風や豪雨など想定外の自然災害にリスクが高まっている昨今、災害に強い住まい選びをすることが、命や暮らしを守るうえで重要です。そこで、不動産コンサルタント・長嶋修さんの著書『災害に強い住宅選び』から、防災の視点からマンションを購入する際の注意点をご紹介します。
文/長嶋修
タワマンに限らず存在するマンションの脆弱性
マンションというと、従来「一戸建てより風水害に強い」というイメージがあると思います。実際、多くのマンションでは、鉄筋コンクリート造となっている分、木造一戸建てより強いと言えます。
しかし、だからといって風水害のリスクがまったくないわけではありません。それは、 2019年10月に関東を直撃した台風19号により、神奈川県川崎市・武蔵小杉のタワーマンションをはじめとする多くのマンションが被災したことからも、明らかになっている通りです。
武蔵小杉のタワーマンションの事例ほど話題にならなくても、実は大規模な台風やゲリラ豪雨が発生するたびに、大小さまざまなマンションが被害を受けています。先の一件で、タワーマンションは特別に風水害に弱い、と誤解する人が増えましたが、実際は、マンション全般が意外と風水害に弱いのです。
もっとも、タワーマンションの高層階に住んでいると、停電や断水の際に大きな影響を受けることは確かです。一方で、タワーマンションのほうが中小規模のマンションよりも、防災面で有利な点もあります。 たとえば、タワーマンションの多くは、非常時に備えて「防災センター」を設置しています。なかには、 24時間体制で管理スタッフが常駐しているセンターもあります。東京都の場合、防災センターの管理スタッフには、防火や防災に関する講習を修了した有資格者が配置されることになっています。そのため、いざというときには、被害を最小限に抑えるための適切な初期対応を、専門家にしてもらうことができます。
防災センターがあるマンションは一握りであり、住戸数の多いタワーマンションだからこそ実現できているサービスです。中小規模のマンションでは、管理人すら常駐していない場合も多く、何かあっても時間帯によっては即座に対応できないかもしれません。
また、有事に際して管理会社のスタッフに連絡しても、大規模災害が発生した場合は、より被害の大きなマンションや規模の大きなマンションが優先されて、対応が後回しにされる可能性も考えられます。あるいは、管理会社自体が被災しているかもしれません。こうした理由で、管理会社に頼れない場合は、住人同士が結束して難局を乗り越える必要があります。
そう考えると、タワーマンションなどの大規模マンションには一定の安心感があります。また、そもそもタワーマンションは耐震性や耐火性に優れていて、地震に強いといった側面もあります。つまり、タワーマンションをやみくもに忌避する必然性はないのです。
「立地」「構造」「防災意識」によってリスクの多寡が決まる
タワーマンションにしても中小規模のマンションにしても、これから購入するのなら、風水害になるべく遭いにくい、もしくは被害を最小限にとどめることができるような物件を選びたいものです。
マンションの風水害のリスクの多寡は、次の3つのポイントによって変わってきます。
・立地:マンションがどんな地域に位置しているか
・構造:マンションがどのような構造になっているか
・防災意識:管理組合や入居者の防災意識がどうなっているか、具体的にどんな取り組みが行われているか
まず、「マンションがどんな地域に位置しているか」という点ですが、エリアごとの水害のリスクの多寡は、洪水ハザードマップを見れば、過去に浸水したことがあるエリアを含め、浸水区域の予想が示されているので、明確にわかります。最近は外水氾濫だけでなく、内水氾濫のリスクを示したハザードマップを用意する自治体も増えてきたので、地域ごとの水害リスクをより把握しやすくなりました。
ハザードマップでリスクを指摘されがちなのは、河川や用水路、暗渠などに近接した地域のほか、雨の降りやすい地域です。たとえば、山沿いは平野部よりも雨が降りやすくなります。平野部であっても積乱雲が発生しやすいエリア(盆地や川沿いなど)は、ほかの場所に 比べてゲリラ豪雨が頻発する傾向にあります。
ゲリラ豪雨が多く発生している地域を調べるには、地域ごとの降水量をチェックするといいでしょう。 時間あたり何ミリの雨が降ったかを示す「 時間降水量」が一般的ですが、 ゲリラ豪雨は一気に降って短時間でやむという、熱帯のスコールのような降り方をするため、 時間降水量と、短期間にどれだけの雨が降っているかを測る「分間降水量」の双方を見るのが一番です。
10分間降水量は、あまり知られていませんが、計測結果を公表する自治体は、少しずつ増えています。購入を検討しているマンションがあるなら、近くにある公共施設で、過去の10分間降水量を公表しているかどうかを調べてみましょう。データが見つかった場合、それがほかの地域と比べて多いか少ないかを確かめてください。少し手間はかかりますが、このところ特にゲリラ豪雨による被害が増えているので、手間をかけるだけの価値はあるでしょう。
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『災害に強い住宅選び』(長嶋修著)
日経プレミアシリーズ
長嶋 修(ながしま・おさむ)
1967年東京都生まれ。不動産コンサルタント。さくら事務所会長。NPO法人日本ホームインスペクターズ協会初代理事長。国交省・経済省の様々な委員を歴任。2019年より始めたチャンネル『長嶋 修の不動産経済の展開を読む』(現在は『長嶋 修の日本と世界を読む』に改題)では不動産だけではなく、国内外の政治、経済、金融、歴史などについても解説。広範な知識と深い洞察に基づいた的確な見立てが注目を集めている。テレビ出演、講演等実績多数。著書に『不動産格差』(日経新聞出版)など多数。