台風や豪雨など想定外の自然災害にリスクが高まっている昨今、災害に強い住まい選びをすることが、命や暮らしを守るうえで重要です。そこで、不動産コンサルタント・長嶋修さんの著書『災害に強い住宅選び』から、土地のリスクの見分け方をご紹介します。

文/長嶋修

地名でわかる土地歴史 

「土地の履歴書」ともいえる「地名」には、しばしば地域の歴史が刻まれています。例えば 「池」や「川」「河」「滝」「堤」「谷」「沼」「深」「沢」「江」「浦」「津」「浮」「湊」「沖」「潮」 「洗」「渋」「清」「渡」など、漢字に「サンズイ」が入っており、水をイメージさせるものは低地で、かつては文字どおり川や沼・池・湿地帯だった可能性があります。例えば渋谷駅周辺は、舗装された道路の下に川が流れており、低地で地盤も弱いのです。 

内陸部でも「崎」の地名がつくところには、縄文時代など海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった地域で、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる可能性があります。東日本大震災の津波被害で一躍注目を浴びた宮城県仙台市の「浪分神社」は、1611 年の三陸地震による大津波が引いた場所という言い伝えが残っています。 

杉並区荻窪の「オギ」は湿地に育つイネ科の植物で、古くは一帯に「荻」が自生していました。「クボ」は文字通り窪地です。地域を流れる善福寺川の氾濫によってこれまで何度となく水害に見舞われています。新宿区大久保、国分寺市恋ケ窪なども同様です。中野区沼袋は低湿地で沼地があったとされます。 目黒区には現在暗渠になっている蛇崩 川という河川がありますが、ここには大水で崖が崩れ、そこから大蛇が出てきたという伝説が残されています。大阪市梅田は「埋田」から転じたとされ、「梅」は「埋める」に通じるようです。 

地名は「音」(読み方)で意味がわかる場合もあります。椿はツバケル(崩れる)で崩壊した土地を意味し、「桜」が「裂ける」を意味することがあります。 

注意したいのは、近年になって地名が変更されたところです。戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、旧地名から「〇〇野」「〇〇が丘」「〇〇台」「〇〇 ニュータウン」といった地名に変更されている場合があります。 

東日本大震災に伴う津波に関し「津波は神社の前で止まる」とテレビで話題になったことがあります。福島県相馬市の津(つのみつ)神社には「津波が来たら神社に逃げれば助かる」という言い伝えがあり、近隣の人たちは、小さいころからその伝承を聞いて育ったそうです。実際 3・11の津波の際にはその教えに従い、神社に避難した50人ほどが助かりました。 

地域にある法務局に行くと、該当地の「登記事項証明書」を1通600円で、土地所有者でなくても取得できます。そこには「田」「畑」「宅地」といった土地の用途区分が書かれて います。現在は宅地に見える土地でも、過去をさかのぼれば田んぼだったかもしれず、そうなると地盤は軟らかい可能性が高くなります。 

地元の図書館に赴けば、地域の歴史が刻まれた書籍が置いてあることが多く、それらを参照するのも有用かもしれません。また多くの自治体が地名の由来などについて、ホームページで紹介しています。 

インターネットで確認できるハザードマップ」 

ハザードマップは河川氾濫による洪水や地震の津波、土砂災害、火山噴火など、さまざまな災害被害を予測し、その被害の範囲を地図上に示したもので、インターネットですぐに閲覧できます。 

国土交通省のハザードマップポータルサイトにある「重ねるハザードマップ」には、防災に役立つ災害リスク情報などを地図や写真に重ねて表示でき、ある地点の自然災害リスクをまとめて調べることができます。スマートフォンのGPS機能を用いれば、現在地の防災情報を簡単に入手することができます。 

ポータルサイトにある「わがまちハザードマップ」を見れば、全国の市区町村が作成したハザードマップを地図や災害種別から簡単に検索できます。 

ハザードマップを公開しているのはすべての自治体ではありません。国交省によると、浸水が見込まれる区域があってハザードマップ公表が義務付けられた市区町村は全国で1347あります。また作成の基準も異なります。 

最大雨量について「数十年から100年に1度レベル」の旧基準では、 98パーセントの1323市区町村が公表済みですが、15年改正水防法による最大雨量「1000年に1度レベル」の現行基準で公表済みなのは、 33パーセントの447にとどまります。したがって「旧基準」か「現行基準」かの確認が必要でしょう。 また多くの市区町村では、過去の水害実績などを閲覧させてくれる場合もありますので、問い合わせてみてください。 

河川情報「河川整備計画」で 

近所に気になる河川がある場合、国や自治体がウェブサイトで公開している「河川整備計画」が参考になります。河川整備計画では、過去の治水対策から今後の整備計画まで網羅されており、河川に関するおよその情報がわかります。 

河川整備計画は「河川管理者」が公開しており、江戸川や荒川の管理は国交省や河川事務所のウェブサイトで、都道府県が管理する河川について調べたいときは、自治体のウェブサイトで探します。あるいは「 〇 〇川 河川整備画」で検索してもいいでしょう。 

災害情報で、一番便利で使いやすいのは 「Yahoo! 天気・災害」です。ハザードマップや河川情報はもちろん、台風や津波・洪水情報もリアルタイムで確認できます。河川水位のライブカメラもあり、さまざまな情報が一元化されています。要ブックマークです。 

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
1967年東京都生まれ。不動産コンサルタント。さくら事務所会長。NPO法人日本ホームインスペクターズ協会初代理事長。国交省・経済省の様々な委員を歴任。2019年より始めたチャンネル『長嶋 修の不動産経済の展開を読む』(現在は『長嶋 修の日本と世界を読む』に改題)では不動産だけではなく、国内外の政治、経済、金融、歴史などについても解説。広範な知識と深い洞察に基づいた的確な見立てが注目を集めている。テレビ出演、講演等実績多数。著書に『不動産格差』(日経新聞出版)など多数。

 

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