男女の関係になったのは、2年目の大晦日

彼女は衛生士2人の意地悪も上手にかわして、たった数ヶ月で、クリニックになくてはならない人になった。短大を卒業すると、正規職員として採用され、大卒新卒の給料が15万円くらいだった時代に、20万円近くの給料を得ていた。

「ヘルプで来る女性の歯科医、ウチの歯科衛生士2名は、自分が世界で一番偉いと思っている。そして、彼女のように短大卒で、無資格で働く人を見下している。そういうことにいちいち取り合わないんだよ。大人だな……って思いましたね」

それから2年間、単なる仕事仲間として過ごしてきたという。義幸さんの好みはモデル体型。小柄でぽっちゃりしている彼女は眼中になかった。

「それに、結婚していたから……といっても、今も結婚しているんだけれど、僕は戸籍上の妻に40年間会っていない」

義幸さんと戸籍上の妻とは、18歳から交際をし、25歳の時に“ノリで”入籍をする。

「“結婚してるって、カッコいいよね”みたいな感じで、役所に婚姻届けを出した。その後、お互いの浮気が原因の大ゲンカをして、彼女が別の男の家に転がり込んでしまう。で、その男と同棲するうちに、男が欧州赴任になり彼女もついて行ってしまい音信不通。実家を通じて連絡しようと思えばできるんだけれど、結婚しているとメリットが多いからしなかった。社会的信頼を得て、金目当ての女性も寄ってこない。向こうもルーズな人だから、結婚していることさえ忘れているし、離婚の必要があれば連絡してくるけれど、それがないんだよ」

妻とは地元が同じなので、消息はなんとなく聞こえてきており、現在も欧州に住んでいる。

「彼女との関係が、男女の仲になったのは、彼女が21歳のとき。あれは大晦日だった。ひとりで自宅にいるとさみしくなり、クリニックに行って診療台を倒して音楽を聴いていたんだよ。すると、必死の形相をした彼女が、傘と箒を持って僕に向かってくる。これは泥棒だと勘違いされていると思い“僕だよ”と言うと、泣き出しちゃってね。あれはかわいかったな」

彼女は2年間、義幸さんにきめ細かに世話を焼いていた。白衣や室内履きの洗濯。愛用の道具の手入れ、食事の差し入れなどこまめにしてくれていた。

「自分で仕事を見つけて動いてくれる人なんだ。彼女は両親が小学生のときに亡くなって、親戚の家で育ったから。クリニックのメンバーを家族のように思ってくれたんじゃないのかな。彼女の優しさもあって、気持ちよく働けた。そういうのって伝わるじゃない。予約の患者さんが絶えないくらい、クリニックは繁盛した」

固いつぼみのような心を開いていき、育てていく楽しさがあった~その2~に続きます

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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