取材・文/沢木文

結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻と突然の別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。

* * *

妻の日記には、妻自身の浮気のことも書かれていた

直道さん(仮名・65歳・会社役員)は、コロナ禍での外出自粛中に、終活の一環として、荷物整理を行った。クローゼットの奥から出てきたのは、妻の本音が綴られた、約30年前の妻の日記。それは無口で凡庸だと軽視していた妻が、鋭い目で夫を冷静に観察していた履歴ともいえた。

【その1はこちら

直道さんは、妻を心のどこかで見下していた。

「おとなしくて、いつも微笑んでいて、息子たちを育てる信頼できる母親以上でも以下でもなかった。仕事で家を空けがちな私の代わりに、なんでもやってくれる。僕はポンポンとしゃべる女性が好きだけれど、結婚する人には家庭を守ってほしい。長男の妻は名門国立大学を出て、海外留学経験があるキャリア女性だけれど、僕はああいう人は苦手だ。心が休まることがない。コミュニケーションにスキがなく、何事も完璧だ。ちょっと自分より劣るくらいがかわいいんだ」

しかし、その妻は、凡庸な仮面の下で、自分を見下す直道さんを裏切り続けていた。

「約5年分の日記を夢中で読んでしまったよ。『なぜ夫は会社を容易に信じているのだろうか』、『いい生活とは何だろう』などと哲学的な問いかけもあった。衝撃的だったのは、『よき妻・母であることを強制され、自由なのはFと会っているときだけだ』とあったこと。Fとは誰かと、いろいろ考えてみた。全く心当たりはないが、おそらく30年前に、妻が習っていた絵画教室の教師だと思いついた」

妻は、長男が幼稚園に入った当時、直道さんに「パートでもいいから働きたい」と言った。しかし直道さんは妻は家にいるべきだという考え方を持っていた。さらには妻が働くことは、自分の収入が減ったと思われるからみっともないと思ったので反対した。その代わり、かねてから習いたいと言っていた、絵画教室に通うことを許したのだった。

【次男を愛せない理由がわかった。次ページに続きます】

1 2

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2024年
12月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

「特製サライのおせち三段重」予約開始!

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店