美化した思い出の辛かった部分が今とリンクしていく
離婚してすぐに相手の家に押しかけ、再婚禁止期間である100日を待って本当に再婚。その当時のことを杏那さんは「夢がかなった瞬間」と振り返る。
「親にもあまりいいように思われていなかったし、お互い再婚だったので入籍のときに指輪だけ買いました。その指輪をはめてもらったとき、20代の7年間はこのためにあったんだなって。当時あんなに彼女になりたかったこの人の妻になれた。こんなに幸せでいいのかなって思ったほどでした」
しかし、その幸せは、20代の頃と同じく、我慢の上で成り立っているという。
「刷り込みなんですかね。強く言えなかったあの頃の自分に戻ってしまっているんです。あの頃は彼女ではなかったという遠慮もあって、本当に言いなりでした。でも今は妻という立場なはずなのに、遅く帰ってきた理由も一度は聞くことができても、その後はぐらかされたりしてももう一回追求することができません。嫌われたくない思いが強いのかな。どう思われるのかというのを考える前に喉が詰まって言葉を言えなくなるんです」
結婚前に知ったことだが、夫には元妻との間に女の子がおり、定期的な子どもとの面会のときに元妻と3人で会うこともあるそう。また、すでに子どもがいることもあり、夫は杏那さんとの間に子どもは望んでいない。
「子どもさえいれば、元奥さんと並べるのに……。結局私は妻になっても追いかける立場から抜け出せないんですかね。結婚してもう4年も経つのに、まだ落ち着かないですね。遅く帰ってくるときとかに、浮気を疑って悶々とする毎日です」
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過去の辛い出来事は、辛い部分だけを思い出さないようにしようという心理が働き、時間が経つにつれていい思い出に変わっていくという。杏那さんは「一度も付き合えることはなかった」と言いながらも、当時の彼のことを一度も悪くは言わなかった。
今もまだ夫婦というよりも恋愛関係にあるような印象を抱く。相手のためだけに関係を続けているうちは真の幸せは感じにくい。この夫婦は、杏那さん自身が幸せになりたいと思ったときでも、変わらず結婚生活を継続していけるのだろうか。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。