「今日は帰らなくてもいいんじゃない?」
仕事の会話がすすんでいった頃に、お店の人から「今日、いいワインがありますよ」と声がかかります。2人は常連なのでしょう。
妻は「でも、今日はこれから運転があるのよね」と渋りますが、男性は「泊まりなよ。この間も帰ってしまったじゃないか。今日はそうしないでほしい」と熱い目で言います。すると妻は「そうね。娘にも連絡してみる」と答えます。すると男性はとてもうれしそうな顔をしたのです。
これまでのやり取りで、男性が妻のことをとても愛していることがわかりました。白ワイングラスを傾けながら、仕事の話を中心に共通の知人の噂話をしていると、途中から「オッちゃん! ママ!」と20代の女性がやってきました。顔は妻にそっくりで、体型は依頼者・俊夫さんに似ており長身。おそらく、娘です。彼女は21歳で名門の美術大学に通っていると聞いたことがあります。
3人は実の親子のように食事をしています。娘は最後に「ママがこっちに泊まるなら、私もそうしようかな。オッちゃん、泊まっていい?」と言うと、「そうしなよ」と言っています。
男性が会計とトイレに立った隙に、娘は「お父さんには、ママとホテルに泊まるってLINEをしておくね。私もちょうどオッちゃんに作品のことで相談があったんだ」と言っています。
つまり、この関係は、妻は不倫相手と会う時に、娘を同伴しているということ。これはどういうことなのだろうかと思いつつ、調査を続行。3人は帰宅し、翌朝娘は昨日と違う服を着て登校。妻は男性を車でオフィスまで送り、キスして送り出します。以上の様子を報告しました。
俊夫さんは「これは妻ではない」と最初は認めようとしませんでしたが、娘が登場したあたりから、「これはいったいどういうことなんだ?」とかなりのショックを受け、帰宅。その夜、妻と話し合ったそうです。
すると妻は「弁護士と話してください」と家から飛び出してしまった。そして、翌日やってきた妻側の弁護士から離婚を提案されたそうです。
当然、俊夫さんが拒否して、「慰謝料を請求してやる」と言うと、これまでの俊夫さんの女性遍歴、家庭を顧みずに仕事をしていたこと、DVやモラハラの音声証拠なども全て持っていることを告げたそうです。
「僕も弁護士に相談したら“勝ち目はない。当然の報い”と言われました。そんなに僕は悪いことはしていないと思うんですよ。家族のために頑張ってきただけですし」
その後、娘と話したところ、「オッちゃんとママは、小学校時代の同級生で、昔私が幼稚園くらいのときに、お父さんがママを殴った時に病院に付き添ってくれたんだよ」と言っていたとか。
怖い父親よりも、苦労人で優しく成功している男性を慕った。父親同然だと考えており、幼い頃に遊んでいたおもちゃのほか、あの家には私物も多くあり、半々で生活していることも分かったのです。今回、調査で家の場所が俊夫さんに知れてしまったので、すでに別の場所に引っ越しているそう。
結局、それから1か月もしないうちに、お互いに慰謝料なしの離婚が成立。財産分与も妻は拒否したそうです。
「なんのために頑張って来たのか。何をどこで間違ったのか、さっぱりわからないんです」
俊夫さんのように、自分が良かれと思ってやったことが、相手は求めていないというケースは多々あります。夫婦はお互いに寄り添い、意見をすり合わせることが必要なのです。
加えて、「家は買えても、家庭は買えない」という格言がありますが、仕事に邁進してきた人の中には、俊夫さんのような結末を迎える人も少なくありません。
探偵・山村佳子
夫婦カウンセラー、探偵。JADP認定メンタル心理アドバイザー、JADP認定夫婦カウンセラー。神奈川県出身。フェリス女学院大学卒業。大学在学中に、憧れの気持ちから探偵社でアルバイトを始め、調査のイロハを学ぶ。大学卒業後、10年間化粧品メーカーに勤務し、法人営業を担当。地元横浜での調査会社設立に向け、5年間の探偵修業ののち、2013年、リッツ横浜探偵社設立。依頼者様の心に寄り添うカウンセリングと、浮気調査での一歩踏み込んだ証拠撮影で、夫婦問題・恋愛トラブルの解決実績3,000件を突破。リッツ横浜探偵社 http://www.ritztantei.com/