関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、熟年夫婦、そして我が子や孫を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者は会社経営者の俊夫さん(62歳)です。12歳年下で、結婚25年の妻(50歳)の素行がおかしいと私たちに調査を依頼。俊夫さんは「妻は宗教やセミナーにハマっているかもしれない」と言いましたが、私たちは浮気を確信。
【それまでの経緯は前編で】
レストランで通路側に向かって座る
妻は専業主婦で、いつもは家におり、性格はおとなしいと聞いています。夫から見た妻像と実際の妻は大きく異なることが多々あります。
というのも、人は相手から求められると、その人の前にいるときだけ相手の理想とする自分を演じてしまうところがあるからです。特に俊夫さんは結婚生活のほとんどを、仕事を中心に過ごしており、自宅にはほとんどいない。
接点が少ない夫がいるときだけ、夫が求める役割を果たすことは意外とできてしまうものです。
午前10時に妻が出てきました。紺色のロングスカートにTシャツを着ており、かなりオシャレ。俊夫さんから潤沢な生活費を与えられていると聞いていますが、この服はとても高価そう。小ぶりのストローハットをかぶり、軽快な服装です。マンションのガレージに行き、白のイタリア車に乗って出てきました。探偵カーで尾行をすると、自宅から4キロほど離れた都心のヴィンテージ住宅の車庫に慣れた様子で停めます。ここは一戸建てで、検索すると著名な建築家が設計した家でした。
夕方に大柄な男性と腕を組みながら出てきます。男性は40代でしょうか。依頼者・俊夫さんくらい大柄で、黒のモードな服を着ています。サンダルをよく見ると有名なブランドのコラボ商品で、入手困難な名品。オシャレのバランスもよく、2人はとてもお似合いです。
男性はマスクから鼻を出していましたが、妻は不自然なほど大きい特大サイズのマスクを装着。
いかにもカップル然として歩きつつ、近くのイタリア料理店へ。レストランでは女性が奥に案内されることがありますが、妻は通路側に座っています。顔が見られないようにしていることがわかりました。
高級店でしたが、席は空いており私たちは幸いにも近くの席に案内されます。集音マイクで会話を聞くと、男性はアートの販売関連の仕事をしており、妻はそのサポートをしているようでした。買い付けに地方に行く話などをしていました。
妻はかなり頭が切れるひとで、快活。声も大きく的確な意見をバシバシ言っており、男性は「ホントに頼りになるな」と感心していました。
【「いいワインが入ったんです」というお店の人のひとことで……次のページに続きます】