関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、熟年夫婦、そして我が子や孫を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
2022年8月に厚生労働省は「2020年に離婚した夫婦のうち、20年以上同居した夫婦の割合が21・5%に上り、統計のある1947年以降で過去最高になった」と発表した。いわゆる「熟年離婚」が増えているのだ。
同居期間が20年以上の夫婦の離婚割合は、調査が始まってから約70年間、上昇傾向にある。1990年13・9%と比べても、約1.5倍に増えている。
今回の依頼者・浩司さん(60歳・会社役員)も「結婚30年になる妻の様子がおかしい」と、山村氏のところに電話をかけてきた。
浩司さんと妻は上場企業の同期入社組として知り合う。妻はその会社の創業一族の係累者でお嬢様。結婚前、有名ミュージシャンと交際していたが、失恋する。そこにたまたま居合わせた浩司さんと男女の仲になり、結婚。一人娘を授かり、穏やかに結婚生活を続けていたが……。
【それまでの経緯は前編で】
妻は家事全般が苦手で、夫が行っていた
妻は仕事を続けており、今も出張は多いという。1年前から家庭内別居が続いており、妻の動向はわからない。ただ、浩司さんは妻が不在にしがちな曜日を把握しており、まずは外泊が多い水曜日に狙いを定めました。
浩司さんの調査の目的は、浮気の証拠をつきつけて、妻に離婚を思いとどまってもらうこと。「証拠をおさえて、それを見せれば、離婚なんて軽はずみなことをしないと思うんです」と浩司さんは考えている様子。
妻がなぜ、浩司さんの束縛をうっとうしがりながらも離婚しなかったのかというと、それは家事全般が苦手だから。
「妻は料理、後かたづけ、掃除やゴミ出し、洗濯が苦手です。料理はまずく、掃除するほど散らかるというタイプです。洗濯もできず、丸まった靴下をそのまま洗ったり、色物と白物を一緒に洗ったりしてしまうんです」
そこで、浩司さんが引き受けているとのことでした。また、お金の管理が苦手で、あればあるだけ使ってしまう。その管理もしていたとか。
自由な妻と堅実な夫、お互いが補完できたから、多少の不満があっても夫婦が続いてきたのかもしれません。
朝10時に出てきた妻を追います。妻はスタイルがよく、身のこなしにスキがない。黒いスーツにローヒールのパンプスを履き、さっさと歩いて駅に向かいます。
会社に行き、15時に退勤。そこから家とは逆方向の電車に乗り、新宿駅で下車。駅から近くの古めのマンションに入っていきます。それから2時間ほどしたら、50代半ばの男性と手を繋いで出てきました。
妻はデニムにニットのラフなスタイル、男性は革パンツにジャケットを羽織っています。なんというか、「いかにもミュージシャン」といういで立ちです。
【大型家具店の帰り際に……次のページに続きます】