病で何もかも失ったと思った人生に、同志ができた
そこから10年以上、誰とも付き合うことなく知子さんは1人で過ごします。5年間の投薬期間も終え、再発はなし。仕事に意欲的に活動している中、2つ年下のバツイチ男性とセミナーで知り合い、個人的な連絡を取る仲になったという。
「仲良くといっても飲みに行ってセミナーの感想を話し合ったりするぐらいで、友人関係でした。それを何度か繰り返していく中で相手がバツイチで離れて暮らす子どもがいることを知ったんです。そのことを聞いても私はバツイチのことは言えても自分の病歴は言いませんでした。
そんな中で、付き合ってほしいと告白を受けて。彼のことを異性として見ることは可能だったとしても、私は傷のある体を見せることはできないと思いました。傷を見せることイコール自分の病歴を言わないといけないから。断るつもりでどう返事をしようか迷っているときに、相手は自分の病歴のことを私に伝えてきたのです」
相手の男性は過去に大病を患い、子どもが作れない体になってしまっているとのこと。誠意から付き合う前にそのことを伝えてくれた男性に、知子さんも病気のことを自然に伝えたいと思ったと振り返る。
「『断られるつもりで話した』と言われました。お互いいい年齢でしたが、2人で飲みに行っている間に結婚はもういいよねと話し合っていたので、決して結婚前提の付き合いなどを考えていたわけではなかったはず。でも、絶対に今後結婚はないとは言い切れない状況で、付き合う前に伝えるべきと相手は思っていたみたいで。
そんな気持ちに応えたくなってしまったんです。自分の病歴のことを初めて、病気後に出会った人に話しました」
2人は同棲を始め、結婚については深く考えていないというが、少しずつ1人よりも2人の生活に慣れてきている状況。知子さんは今「隠さずに伝えられる相手がいる幸せ」を実感しているという。
「ずっと1人で生きていくと決めていたはずなのに、本当に意志が弱いですよね(苦笑)。でも、前より1人で未来のことを考える時間は減りました。お互い病気をしたからかな、今を楽しもう、大切にしようという気持ちがすごく強いんですよ。病気になったことを良かったなんて全然思えないけれど、何があってもそれなりに幸せにはなれるんだなってことには気づきました」
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。