田舎がない私に野菜を送ってくれるが捨てていた

里子さんと幸江さんは気が合った。泊まりに行くたびに深夜まで話しこんだ。

「育児のこと、夫のことなどいろいろ話しました。浮気された悩みもずいぶん聞いてもらったな。思えばそんなことを話さなければよかったんですけどね。私が住む東京と、幸江さんが住む街はあまりにも距離が離れている。だから“バレる心配がない”といろんなことを話してしまったんです。パパ友に片思いしていること、夫がときどき自宅に帰ってきては私に夫婦関係を要求し、心を殺して応じていることなども聞いてもらいました」

幸江さんは明るく気さくな人で、ひたすら聞いてくれていた。ペンションの宿泊費も「友達割引よ」と言いかなり安くしてくれた。

「そうなると、親戚感覚になるんですよ。私は両親が東京生まれなので田舎がない。地方在住の親しい人との交流に憧れていたんですよね。そんなことを話すと、幸江さんは野菜や、自宅でついた餅を送ってきてくれるようになりました」

野菜には虫がついており、自宅でついた餅はのし餅になっており、餅を伸ばすときに付いたのだろう、指の跡がくっきりと残っていた。

「申し訳ないけれど気持ち悪くて、“ごめんなさい”と何度も言いながら、捨てていました」

とはいえ、友情は続いていく。娘は成長しペンションへはやがて里子さんひとりで行くようになる。

「年に1回の大切な習慣でした。思えば27年間もあの街に通ったんですね」

そして1年前、里子さんは夫から「もう、俺を自由にしてほしい」と離婚を切り出される。

「呆れたことに、夫はあの部下の女性と付き合っていました。部下の女性は別の男性と結婚し、子供まで授かったのに夫が忘れられず離婚。女性はウチの電話番号を覚えており、電話をした。その時にたまたま夫が電話を取ったらしいんです。焼けぼっくいに火がついて、あの女と再婚するために私と離婚したいと」

【忘れたい昔の記憶を誰もが知っている……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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